最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】

「保育園」のない中国に、100%日本式の保育施設をつくった上海女性

2020年1月30日(木)17時45分
趙海成(ジャーナリスト)、翻訳:小林さゆり

保護者を招いて行われた「暖嬰屋」のクリスマスパーティーに参加する王(2019年12月21日) ZHAO HAICHENG

<実は中国には0歳児から預けられる保育施設がほとんどない。そのため育児に苦労した若い母親が、2歳の子を連れ、日本にやって来た。提携パートナーを探すために――。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集より>

2016年3月、東京の私立保育園「愛嬰(あいえい)幼保学園」に2歳の女の子を連れた若い母親が中国の浙江省湖州市からやって来た。
20200204issue_cover200.jpg
母親の名は王佩瑭(ワン・ペイタン、33歳)。娘を生んでから、育児にかかりきりで自分のことを何もできなくなってしまったが、地元はもとより中国のどこを探しても乳幼児の保育施設がほとんどないのだという。

心身共に疲弊した彼女はこう考えていた。「同じような境遇の親は多いはず。0歳児から預けられる保育施設を中国で造れば、ふびんな親たちを解放してあげられる。必ず需要はある」

調べてみると、日本の保育施設が最も完成されていて先進的だと分かった。だから中国に共同で保育園を設立してくれる提携パートナーを日本で探し始めたが、王にとってこの愛嬰幼保学園は4園目。大阪や名古屋で既に3園に提携を断られていた。

応対した同学園の経営者は、那須暁雍(なす・しゃおよん)。偶然にも同じ中国浙江省出身の女性で、言葉の壁はなく、しかも5つの保育園を経営する実業家だ。王は「救世主が現れた」と期待を寄せた。

しかし、生後間もない自分の子(5人目の子供だ)の育児に専念したいから、と那須に断られる。これまで事業に力を注ぐあまり、自分自身の子供にあまり構ってやれなかったという思いがあるのだという。

それでも王は落胆しなかった。それから2年間、何度も来日し、那須の保育園でボランティアをし、自分は以前金融の仕事をしていて資金調達力もあるからと、那須を説得し続けた。しまいには耐えきれず、王は那須に向かって思わず叫んだ。

「中国のママがどんなに大変か知らないの? あなたは中国人で、日本で成功した企業家でもある。中国に帰って貢献すべきじゃないの!」

情熱はついに実った。2人が正式に契約したのは2018年3月。上海に「暖嬰屋国際幼保学園」を設立し、100%日本式の保育サービスを行うため、日本の保育資格(幼稚園教諭、保育士)を持つ日本人を5人雇った。園長は大学で幼児教育を専攻し、上海の日系幼稚園で十数年園長を務めた経験を持つ日本人だ。

保育園の内装は、日本から招いたデザイナーが担当した。カラフルな色彩で、ファンシーな模様やアニメキャラがあふれ返る中国の幼稚園と比べると、暖嬰屋の内装はさっぱりしていて落ち着いている。家具は全て木製で、部屋を取り囲むようにして置かれたラックの中の中日英3カ国語の絵本が目を引く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中