最新記事

インド

インドが平和を捨てて宗教排他主義に走る

Deadly Protests Over India’s Citizenship Act

2019年12月18日(水)16時45分
ラビ・アグラワル、キャスリン・サラム

インドの首都デリーで行われた市民権改正法に抗議するデモ(2019年12月17日) Adnan Abidi-REUTERS/

<イスラム教徒を除外してヒンズー教徒が国を支配するための新法に宗教的マイノリティーの怒りが爆発。建国以来の世俗主義が危ない>

世界最大の民主主義国で、市民の怒りが爆発した。東はコルカタから北東部のグワハティ、西はムンバイまで、そして北のニューデリーから南のチェンナイ、ハイデラバードまで、市民権法の改正に反対する何万人もの人々がインド全土で抗議の声を上げている。すでにデモの関連で6名の死者が出た。ニューデリーの街頭では、3日連続で抗議デモが行われている。

問題の「市民権改正法」は12月11日に議会を通過し、その後大統領が署名して成立した。母国で少数民族として迫害されてインドに逃れてきた移民が市民権を取りやすくするための法律だ。

対象となるのは、インドと国境を接するアフガニスタン、パキスタン、バングラデシュ出身のヒンズー教徒、キリスト教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒、または仏教徒だ。しかし、インドで2番目に人口が多く、多数派のヒンズー教徒と対立しているイスラム教徒は例外とされた。

はっきり言おう。この法律の目的は、迫害されて逃れてきた周辺国の宗教的少数派を保護することなどではない。宗教を市民権獲得の条件にすることで、インド建国の理念のである世俗主義に挑戦しようというのだ。法律はイスラム教を名指ししてはいないが、あからさまな除外に排除の意図は明らかだ。

イスラム教徒は、イスラム差別だと立ち上がった。他のマイノリティーも、これは数で圧倒的に優位なヒンズー教徒がインドを支配するための法律だと怒っている。

与党インド人民党(BJP)の幹部は、この法律はイスラム差別ではないと主張する。しかし、BJPのアミット・シャー総裁はイスラム教徒の移民を弾圧したいという願望を繰り返し口にしてきた。

4月の演説では、バングラデシュからのイスラム移民に言及し、「BJP政権は、侵入者を一人ずつ拾い上げてベンガル湾に放り込む」と言った。

12月のジャールカンド州での演説でもこう言った。「2024年の国政選挙の前に、連中をまとめて追い出すことを約束する」

どうやって追い出すのか?まずは追い出す対象を識別する必要がある。そこで登場するのが、「国民登録簿」だ。

今年の9月、インド政府は北東部アッサム州の住民を対象に、不法移民を取り締まるための国民登録簿を作成した。住民約3300万人のうち約190万人が、市民権を証明する書類を持っていないという理由で登録簿から除外された。

<参考記事>インドの巧妙なキリスト教弾圧
<参考記事>インドのカシミール「併合」は、民族浄化や核戦争にもつながりかねない暴挙

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中