最新記事

米朝非核化交渉

「交渉期限」の年末に向けて、北朝鮮はICBM実験に踏み切るか

Trump, Kim Jong Un Face Year-End Deal Pressure, But Head Toward Crisis

2019年12月13日(金)16時00分
トム・オコナー

「金は、制裁緩和と米朝関係の改善について具体的な結果を出さなければならない。彼は国民に経済発展を約束してきたし、2018年の前半以降は米韓との外交のためにかなり譲歩もしてきた」

しかし、核あるいはICBMの実験再開は、経済面における同国の唯一の頼みの綱である中国との関係にも悪影響を及ぼしかねない、とオウムは指摘する。金が最高指導者になって以降、中朝関係はそれまでに比べて幾分冷え込んではいるものの、北朝鮮は観光業や食糧支援、そして制裁違反の疑いがある貿易も、中国に頼ってきた。このことから、「金は年末までにアメリカとの合意をまとめることには今も前向きなはずだ」とオウムは言う。

一方のホワイトハウスもまた、結果を出す必要性を感じている可能性は高い。折しも北朝鮮は8日、東倉里の西海衛星発射場で「非常に重要な実験」に成功したと発表。これは金が、2017年11月以来のICBM(あるいはその他の飛翔体)の発射実験に向けて備えを進めている可能性を示す、さらなる証拠だ。

2020年は米朝最悪の危機も

「トランプは2020年の大統領選の前に、外交面での大きな成果を望んでいるのは間違いない。それが北朝鮮との交渉である可能性はある」とカジャニスは指摘する。「だがもし金がICBMの発射実験を再開すれば、2020年の米朝関係は、私たちの記憶にある限り最悪の危機に陥る可能性が高い」

米朝交渉の転換点は、2月にベトナムのハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談だったように思える。カジャニスをはじめとする多くの有識者は、ここで何らかの合意が達成されると予想していたが、トランプが突如、立場を翻したのだ。当時、この戦術は国家安全保障問題担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンの差し金だと批判された。

だが9月にボルトンを解任した後も、トランプ政権は強硬路線を維持。さらに11月には北朝鮮が、スウェーデンで10月に行われた実務者協議の再開を拒んだ。北朝鮮の代表団は、アメリカ側が「すべての大量破壊兵器を放棄せよ」という条件で譲らなかったことを批判した。

両国間で具体的にどのような条件が話し合われてきたのかは、一度も正式に確認されていない。だがオウムは、「暫定合意の大枠」について次のように述べた。

「北朝鮮は寧辺の核関連施設、豊渓里の核実験場と東倉里のミサイル・エンジン実験場を閉鎖し、査察官を受け入れるだろう。アメリカは朝鮮戦争の終結宣言に合意し、北朝鮮に人道支援を提供し、互いに連絡事務所を設置し、国民同士の交流を促し、米韓合同軍事演習を引き続き減らしていくだろう」と彼は言う。

「交渉が難航している核問題については、双方がもう少し柔軟な姿勢に転じる必要がある」とオウムは言う。北朝鮮は非核化の手段やミサイル・核実験結については譲歩ができるはずだし、アメリカは部分的な制裁解除や周辺地域での軍事活動の削減などを進めることができるはずだ」

それが可能なら、とっくに実現しているはずだが。

20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、アリゾナ州で自動運転タクシー事業を申請=

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中