最新記事

ゲノム解析

5700年前の「チューインガム」から古代人の姿が明らかに

2019年12月20日(金)15時15分
松岡由希子

<デンマークで約5700年前のカバノキのヤニが発掘され、古代人のゲノムが完全に解析された。人骨以外の遺物から完全なるヒトのゲノム解析に成功したの初めてだ......>

デンマーク最大の石器時代遺跡である南部ロラン島のシルトルムで、チューインガムのような約5700年前のカバノキのヤニが発掘され、ここに遺されたDNAから古代人のゲノム(遺伝情報の全体)が完全に解析された。人骨以外の遺物から完全なるヒトのゲノム解析に成功したのはこれが初めてだ。

歯形の遺された約2センチのヤニの塊からDNAを解析

コペンハーゲン大学のハンネス・シュローダー准教授らの研究チームは、歯形の遺された約2センチのヤニの塊からDNAを解析し、2019年12月17日、その研究結果をオープンアクセス誌「ネイチャーコミュニケーションズ」で発表した。

これによると、この「チューインガム」に歯形を遺したのは女性で、肌は浅黒く、黒髪で、青い瞳をしていた。遺伝子的には、当時スカンジナビアに居住していた人々よりも、欧州本土の狩猟採集民に近いという。研究チームでは、この女性を「ローラ」と名付けた。

012-genome-neolithic-woman-2.jpg解析されたゲノムから想像された「ローラ」 Tom Björklund


ロラン=ファルスター博物館によって発掘調査がすすめられているシルトルムは、ほぼすべてが泥で覆われているため、有機遺物の保存状態が極めて良好だ。樹皮を熱して抽出されるカバノキのヤニは、中期更新世から万能接着剤として用いられ、これまでにもスカンジナビア内外の遺跡で頻繁に発掘されてきた。

「ローラ」がこの塊を噛んだ目的は不明だが、接着剤として利用する前に柔らかくしようとした、歯痛などの病気の緩和に用いた、歯ブラシ代わりに使った、現代人と同じく「チューインガム」として楽しんだといった可能性が考えられる。

植物や動物のDNAも遺されていた

ヤニの塊には、「ローラ」のDNAのほか、「ローラ」が摂った食事の一部とみられるヘーゼルナッツやアヒルなど、植物や動物のDNAも遺されていた。研究チームは、口腔微生物叢からDNAを抽出することにも成功。

口腔内常在菌のナイセリア-サブフラバやロチア-ムシラギノサ、歯周病原性細菌のポルフィロモナス-ジンジバリスやタンネレラ-フォーサイシア、伝染性単核球症を引き起こすエプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)などが確認されている。

シュローダー准教授は、ヤニの塊から口腔微生物叢をDNA解析した意義について、「我々の祖先は、現代とは異なる環境で暮らし、異なる食生活やライフスタイルで生きていた。これが口腔微生物叢にどのように反映されるのかを解明するのは、興味深いことだ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

トランプ氏、ウクライナ兵器提供表明 50日以内の和

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中