最新記事

貿易戦争

2019年、トランプが世界貿易体制を転覆させた

Trump Turns Global Trade Upside Down

2019年12月27日(金)19時00分
キース・ジョンソン

合意は見せかけ(米大統領執務室で習近平の親書をトランプに渡す中国の劉鶴副首相、10月11日) Yuri Gripas-REUTERS

<二国間主義で相手に譲歩を求めるスタイルはアメリカにもほとんど成果をもたらさず、自由貿易体制を脅かしている>

2019年は果てしなき貿易戦争の年だった。アメリカは中国やヨーロッパだけでなく、さまざまな理由からさまざまな国に貿易戦争を仕掛けた。日本と韓国の間でも貿易戦争が勃発し、EU離脱問題に揺れるイギリスは、貿易をめぐって国内が真っ二つに割れた。

2019年は、世界的な自由貿易体制に対するドナルド・トランプ米政権の敵意が最高潮に達した年でもあった。だが多数の品目の関税が引き上げられ、混乱や緊張が高まるなか、アメリカが手にしたのは北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定や日米貿易における限定的な譲歩、それに米中貿易交渉における第一段階の合意(ミニ合意)といった、幾つかの小さな勝利だけだった。

貿易戦争は、世界経済に大きな代償を強いた。米国内だけではなく世界各国の企業が投資を控えるようになり、製造業は不振に陥っている。トランプ大統領による対中追加関税は結局、アメリカの企業や消費者の負担になっており、さらに農業部門は中国による報復関税で大きな打撃を受けている。FRB(連邦準備理事会)の議長はトランプが金融政策に口出ししてくることに頭を悩ませており、専門家たちは相次いで世界経済の成長見通しを引き下げている。

貿易戦争は「ニューノーマル」なのか

アメリカにとって、貿易をめぐる大混乱はトランプの退任と共に消え去る一過性の嵐ではなく、ニューノーマル(新たな常識)なのかもしれない。2020年の大統領選で民主党の指名獲得を目指す候補者の多くが、トランプ同様の保護主義者で、米経済を中国から切り離そうと必死だ。グローバル化や自由貿易の恩恵が謳われるようになって数十年になるが、その間に多くのアメリカ国民の考えは変わってきたようだ。

それでも希望がない訳ではない。アメリカは世界の貿易システムに背を向けているが、世界の多くの国は経済統合や自由貿易にこれまで以上に力を入れている。EUはさまざまな国と自由貿易協定を締結。トランプに見捨てられたアジア太平洋諸国はTPP(環太平洋経済連携協定)の縮小版にあたる新協定に署名し、さらに中国を含むもう一つの協定(RCEP=東アジア地域包括的経済連携)の妥結に向けて動いている。

<参考記事>中国「皇帝」習近平は盤石ではない、保守派の離反が始まった
<参考記事>中国で捕らわれた外国人を待つ地獄の日々

フォーリン・ポリシー誌ではこの1年、貿易戦争についてさまざまな記事を掲載してきた。その興味深い指摘を一部だが紹介しよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:株価急騰、売り方の悲鳴と出遅れ組の焦り 

ワールド

焦点:ウクライナ、対ロシア戦の一環でアフリカ諸国に

ビジネス

ECB、インフレ目標達成へ=デギンドス副総裁

ビジネス

米、中国からのレアアース輸出加速巡り合意=ホワイト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 10
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中