最新記事

中東

米制裁で揺らぐイランの中東覇権──支配下のイラクやレバノンでも反イラン暴動

Trump Sanctions Weaken Tehran as Protests Escalate In Iran, Iraq, Lebanon

2019年11月20日(水)18時25分
ジョナサン・ブローダー

2003年に米軍がイラクの独裁者サダム・フセインを倒した後は、イランが支援する政治家がイラク議会と軍隊を支配するようになった。シリア内戦中、イランの革命防衛隊は、シリアのバシャル・アサド政権を支援するためにヒズボラと他のシーア派勢力を動員した。イエメンでは、イランが軍事援助するシーア派武装勢力ホーシー派が、失脚したスンニ派政権を権力の座に戻そうとするサウジアラビア主導のアラブ有志連合を攻撃した。

イラクとレバノンにおけるイランの失敗は、それぞれの国の軍事的・政治的成功を社会的・経済的利益に還元できなかったことだ。「イランはテーブルに食べ物を置くことができなかった」と、ガダールは言う。

食べ物をテーブルに置くことや、その他統治の問題は、イランやその代理勢力にとって優先事項ではなかった。イラクとレバノンへの政治的介入の目標は、地域におけるイランの軍事的地位を高めることだった。

だがイラクでは、地方動員部隊のような代理勢力が、イラン寄りの軍事活動のために公的資金をくすねた。「彼らは腐敗とたかりの象徴になった」と、ワシントンのシンクタンク、中東研究所のランダ・スリムは言う。

そしてレバノンの場合、ヒズボラは「政府の一員になったからには汚職を一掃する、という国民の期待に応えられなかった」と、付け加えた。

街頭の戦いはまだ続く

その結果、イラクとレバノンの一般国民のイランに対する評価は暴落した。イランに対する抗議デモがイラクで続くなか、イラクのサッカー代表チームがワールドカップ予選試合でイランを2対1で破り、イラク国民のイランヘの感情が別の形で明らかになった。

歓喜に湧く群衆は、デモ隊の取り締まりのためにバグダッドにいたイランの革命防衛隊のエリート部隊司令官カシム・ソレイマーニ少将を名指しで罵った。「多くのイラク人は、イランに屈辱を与えることができたと感じた」と、スリムは言う。

今後注目すべきは、政府に怒りを抱く国民が、投票箱を通じてその怒りを親イラン勢力に対して行使するかどうか、そしてデモ参加者がイランの影響力を減らすために求める変化を、イランが容認するかどうか、だ。

「野球の試合でいうと、まだ2回というところだ」とワシントンの戦略国際問題研究センターの中東プログラムの責任者ジョン・オルターマンは言う。

レバノンとイラクに燃え広がる街頭での戦いはまだ長引きそうだ。

(翻訳:栗原紀子)

20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、2月は予想上回る改善 25年7

ワールド

高市首相、食料品の消費税2年間ゼロ「できるだけ早く

ワールド

英元王子アンドルー氏、エプスタイン被告と公的文書共

ワールド

ウクライナ各地にドローン攻撃、子ども含む4人死亡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中