最新記事

移民

メキシコ国境で待機の移民「レイプや拷問の被害が急増」

Migrants In Mexico Have Faced Electric Shock Torture, Rape, MSF Claims

2019年11月1日(金)16時20分
シャンタル・ダシルバ

軍に拘束されたメキシコのヒットマン(殺し屋)。アメリカへの移民をメキシコに留め置くトランプの政策が、犯罪の犠牲者を生んでいる Tomas Bravo-REUTERS

<国境なき医師団の活動報告によれば、地元犯罪組織による移民の誘拐が急増し拷問手法も残虐性を増している>

メキシコ南部で活動している国境なき医師団(MSF)のチームは10月30日、現地での活動報告書を発表。アメリカへの入国を目指す移民に対する、暴力の高まりがみられると指摘した。犯罪組織による「拷問の手法」がますます残虐になりつつあるという。

同報告書によれば、メキシコとグアテマラの国境のすぐ西に位置する町、テノシケでは、移民に対する暴力や誘拐の報告が増えている。移民たちが犯罪組織による「拷問、性的暴行やゆすり」の被害に遭っており、この1カ月足らずの間にその数が急増しているという。

「誘拐事件が急増していることに加えて、この地域で活動する犯罪組織が使う拷問の手法が、ますます残虐なものになっている」と、テノシケの医療活動責任者ジェマ・ポマレスは声明で述べた。

「この地域で誘拐や拷問の被害に遭いMSFチームの治療を受けた移民の数は、1カ月足らずで11人にのぼった。今年の1月から8月の間に誘拐されて治療を受けた移民の総数と同じだ」

MSFは現地で移民たちの医療相談や心理相談に応じており、この中で数多くの被害の報告を受けた。それによれば、誘拐された移民たちは空き家に連れて行かれ、無理やり衣服を脱がされて、何時間も屋外に縛りつけられた。そして親族の電話番号(ゆすりに使う)の提供に同意するまで、暑さや悪天候に耐えることを強要された。

トランプの「メキシコ残留政策」が原因

医療チームは現地で、性的暴行の被害に遭った者のほかに、銃やナイフで傷を負った者の治療も行ったと報告した。性的暴行を受けた移民の中には、性器に電気ショックを与えられたり、配偶者や友人がレイプされるのを見せられたりした者もいたという。

MSFのメキシコ担当コーディネーターであるセルジオ・マルティンは声明の中で、犯罪組織が移民を狙うケースが急増した原因は、アメリカが移民政策を厳格化したことにあると批判した。

「移民政策の厳格化が非人道的な結果をもたらし、生き延びるために必死で国を逃れてきた大勢の人々をさらに苦しめている」とマルティンは声明で述べた。

メキシコ政府は、移民のアメリカ流入を阻止しろというドナルド・トランプ米政権からの圧力を受けて、移民の取り締まりを強化している。それが原因で「移民たちは摘発を逃れるために、ますます危険なルートを取らざるを得なくなっている」とMSFは警告している。

やっとの思いでアメリカとの国境にたどり着いても、移民たちを待っているのは、それまでの旅路と同じく危険な環境だ。トランプ政権はメキシコとの間で、難民申請手続き中の移民をメキシコで待機させる協定(「メキシコ残留」政策)を結んでいる。この制度の下、アメリカへの難民申請を希望する移民たち(18歳未満の子ども数千人も含まれる)は、アメリカが審査を行う間、何週間もメキシコで待たなければならない。

<参考記事>トランプ政権が生んだ、命も危ない児童移民収容所
<参考記事>不法移民の子どもは薬漬けで大人しくさせられていた?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都

ビジネス

豪年金基金、為替ヘッジ拡大を 海外投資増で=中銀副
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中