最新記事

中国

中国は政治も経済も矛盾だらけ──それでもこの混沌は今後10年変わらない

2019年10月24日(木)12時45分
ユアンユアン・アン(ミシガン大学准教授・政治学)

重慶市発展の功労者である薄煕来(中央)も汚職スキャンダルで失脚した(2013年撮影) JINAN INTERMEDIATE PEOPLE'S COURT-HANDOUT-REUTERS

<今の政治体制を肯定する「儒教的合理主義派」にも、共産党の死を予見する「懐疑派」にも見えない現実がある>

中国では習近平(シー・チンピン)国家主席が2012年に反腐敗運動を開始して以来、共産党幹部を含む150万人以上が摘発された。江蘇省で揚州市書記や南京市長を歴任した季建業(チー・チエンイエ)もその1人。今ではすっかり賄賂と醜聞のイメージが付きまとうが、失脚前は冷酷さと有能さで知られ、「建国以来、江蘇省に最も貢献した指導者」と呼ばれた。

中国の政治体制を評価するとき、専門家の見方は「儒教的合理主義派」と「懐疑派」に分かれる。山東大学政治学部のダニエル・ベル学部長は前者の代表格で、官僚が「能力と価値観」に基づきトップダウン方式で選ばれるこのシステムを、民主主義に代わる優れたモデルとして国外にも広めるべきだと考える。

一方、後者の代表格である米クレアモント・マッケンナ大学のミンシン・ペイ教授や作家のゴードン・チャンなどは、中国共産党は腐敗の末に、すぐにも崩壊するだろうと以前から主張し続けている。ペイは中国の体制を「不正利得と放蕩に満ちあふれ、無法地帯と化している」とまで言う。

しかし、どちらの見方も正しくない。中国では腐敗と効率が同居し、補強し合っている。前出の季がいい例だ。彼は大胆な都市再開発事業によって揚州を瞬く間に有数の観光地に変えた。「ブルドーザー市長」の異名を持つ彼の市書記時代に、揚州の1人当たりGDPは江蘇省の平均を初めて上回った。

同時に、季の取り巻きは私腹を肥やした。季への高額な贈り物や賄賂と引き換えに、公共事業をほぼ独占的に受注した。こうした企業の1つ、ゴールド・マンティス社の利益は、6年間で15倍に増加。季が経済活性化に励むほど、腐敗は広がった。

権力が汚職を呼び寄せる

季だけではない。私は間もなく出版される著書『中国の金ピカ時代』のために市レベルの高官を務める共産党員331人を調べたが、汚職で捕まった者の4割が摘発前5年以内に(一部は直前に)昇進していた。

ベンチャーキャピタリストのエリック・X・リーら合理主義派は、汚職はあっても「成長を支えているのは個々の能力」だと主張する。だが中国では、腐敗は起こるべくして起こっている。共産党が土地から金融まで、重要な資源を押さえているからだ。当然、絶大な権力を持つ共産党指導者の元には、陳情が賄賂と手を携えてやって来る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買

ビジネス

中国外貨準備、4月は予想以上に減少 金保有は増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中