最新記事

フィリピン

世界で唯一戒厳令のある島フィリピン・ミンダナオ島 延長か終了か再び焦点に

2019年9月24日(火)17時38分
大塚智彦(PanAsiaNews)

2017年、ISに忠誠を誓う組織とフィリピン軍の戦いで荒れたマラウィ市 Romeo Ranoco-REUTERS

<かつてマルコス政権の独裁にもつながった戒厳令。イスラム過激派を掃討するため2年前から続く措置を継続するかどうか、さまざまな意見が飛び交っている>

東南アジアで唯一、というか現時点ではおそらく世界でフィリピンだけではないだろうか、戒厳令が布告されているのは。そのフィリピンで2017年5月25日以来続く南部ミンダナオ島全域に出されている戒厳令について、今年末の期限切れを前にさらに延長するべきか、終了するべきかの議論が高まっている。

9月21日はフィリピン国民にとって忘れることのできない歴史的な日である。1972年9月21日、時のマルコス大統領が反政府運動の高まりや共産党系の新人民軍によるテロなどで国内の政情が不安定化していることを理由にフィリピン全土に戒厳令を発布した。

この日の戒厳令発布により憲法は停止され、マルコス政権に反対する学生や活動家に対する治安当局の超法規的弾圧が強化された結果、マルコス大統領による独裁政治が「確立」していくことになる。

その悪夢の「マルコス戒厳令」にちなむ9月21日、フィリピンではマルコス時代に弾圧を受けた活動家や行方不明となった家族らによる集会が開かれ、「暗黒時代を忘れるな」「悪夢を繰り返すな」と訴えた。

レニ・ロブレド副大統領は21日声明を発表し「マルコス時代の暗黒の日々を忘れてはならない。マルコス時代を知らない若い世代は戒厳令が単に政治的なものでなく、国民生活の隅々まで大きな影響を与えるものであることを学び、そうした悪夢の復活を許してはならない」と国民に呼びかけた。

ドゥテルテ大統領批判を続けているデ・リマ上院議員は「ドゥテルテ大統領による独裁に国民は抵抗しなくてはならない」として戒厳令に反対の立場を示した。

戒厳令延長に賛否両論

地元紙「フィリピン・スター」によると、ドゥテルテ大統領は7月に年末に期限切れを迎えるミンダナオ島の戒厳令について「地元が延長を望むのであればさらなる延長もありうる」との立場を表明したという。

その地元ミンダナオでは「戒厳令で治安情勢は安定している」として延長を望む声が多いとされている。さらに国家安全保障アドバイザーのヘルモン・エスペロン氏も同紙に対して「テロとの戦いのためにも戒厳令延長は必要だと大統領に進言する」との立場を表明している。

このように2019年末の期限切れに向けて4度目となる戒厳令延長に向けた世論が徐々に形成されるなか、異論もでている。

シンクタンクの「アテネオ政策センター」のマイケル・ヘンリー・ユシンコ研究員は「戒厳令は果たしてテロの阻止に有効なのかの検証が必要。テロ阻止は治安当局だけでなく政府全体の取り組みが必要である」として安易な戒厳令延長に消極的な姿勢を同紙に対して示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=

ワールド

ロシア、ウクライナ首都にドローン・ミサイル攻撃 1

ワールド

インド、年末までにEUと貿易協定締結の見通し=モデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中