最新記事

環境問題

燃え尽きるアマゾンの熱帯雨林 先住民の命の糧が失われる

2019年9月10日(火)13時05分

動物たちが暮らし、薬草が生える森が焼失し、命の糧を失った先住民は、今後の生活を懸念している。写真はアマゾナス州のジャングルの焼け跡。8月24日撮影(2019年 ロイター/Bruno Kelly)

パキリ村の副村長は、村にとって来年は苦難の時になると覚悟している。アマゾンの森林を襲う火災が、村人たちの食料や医薬品、生計基盤を焼き尽くしているからだ。

デウスディマル・テンハリム副村長は、村民たちが狩猟採集の場としている保護対象地域のうち、約6万ヘクタールが焼失したとみている。しかも、まだ鎮火していない。

「村の消防団では対処できない。ブラジルナッツを採っている木も失われた」と、副村長は言う。ブラジルナッツは近隣の町に売ったり、儀式や医薬品にも使われていると話す。

「我々にとっては神聖なものだ。だが、来年の2020年、ジャングルでブラジルナッツを見つけるのが今より難しくなるのは間違いない」

アマゾン熱帯雨林の役割

ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)は8月、アマゾン川流域の火災件数が2010年以来で最多を記録したと発表した。

国際社会からは、世界最大の熱帯雨林であるアマゾンを伐採などの脅威から保護する措置を強化するよう、ブラジルに求める声が高まった。

アマゾンの森林は地球温暖化を食い止める鍵と科学者たちは見ており、アマゾンから発生する水蒸気が、南米の広範囲にわたる農業に不可欠な降雨をもたらしている。

アマゾナス州にあるテンハリム先住民居住区は、中規模の2つの町に挟まれている。合計180万ヘクタールの土地に、先住民の複数の部族が暮らしている。

パキリ村のデウスディマル副村長は、彼の部族を脅かす火災は人為的なものだと確信している。自らも消防団の訓練を受けている副村長は、出火した地点などから判断すれば、火災が自然発生したものかどうかすぐに分かるという。

「完全に、(人間の)欲望によるものだ」と、彼は言う。農地開拓のために農民が森林に火を放ち、「我々は直接、間接に傷つけられている」と、デウスディマル副村長は語る。

焼失している資源はブラジルナッツだけではない。

居住民の健康面の面倒をみているライムンディンハ・テンハリム氏は、人々が病気になったときに使う薬草や植物の根が見つからなくなるのではないかと憂慮している。彼らには、それ以外の治療手段がほとんどない。

居住区内の村々から大きな街へ向かう交通手段は、最も近い幹線道路を1日1回通過するバスぐらいである。そのため、ほとんどの病気や怪我は、森林に生える薬草を使った民間療法で治療されている。その森林が燃えていると、ライムンディンハ氏は言う。

火災が広がってからといもの、彼女は保存してあった生薬を使って治療に当たっている。火災による煙を吸ってしまった先住民の子どもたちの治療もその1つだ。

「(森には)咳の薬もあるし、外傷のための薬も何でもある」と、彼女は言う。「それがなくなったら、どうしていいか分からない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中