最新記事

環境問題

燃え尽きるアマゾンの熱帯雨林 先住民の命の糧が失われる

2019年9月10日(火)13時05分

火をもって火を制す

テンハリム先住民居住区で発生している火災は、住民以外の人間が引き起こしたものとしては今年初めてだ。実は、すでに先住民自身が意図的に火災を起こしている。

テンハリム部族には、ブラジル環境・再生可能天然資源院(Ibama)のために働く消防団員がいる。彼らは5月から6月にかけ、初めて森の一部に火を放った。近づく乾季の間、火災のリスクを減らすためだ。

部族にとって不可欠な動物や食料を育んでいる場所の周囲を更地にするため、火の勢いをコントロールして火事を起こしたという。「あの作業をやっていなければ、火災ははるかにひどい状況になっていただろう」と、消防団員の1人は記者に語った。だが、炎から守られた面積は限られているという。

現在、約30人の消防団員が森林火災の消火を手伝っているが、活動はもっぱら夜間である。「日中は風が強すぎて無理だ」と、団員の1人は言う。

焼失した森を嘆く歌

ブラジルの7州を貫く全長4000キロのトランス・アマゾニアン・ハイウェイの沿道は、火災の爪痕が今も生々しい。

先住民の人々は、ブラジルの環境保護当局が弱体化したのは右派のボルソナロ大統領の責任だと言う。

野党・社会主義自由党がロイターに見せた政府の内部資料によれば、大統領の就任以来、政府全体の歳出削減の一環として、Ibamaの予算は4分の1がカットされた。

その1つが、森林火災の予防・抑制のための予算だ。データによれば、23%削減されている。

相次ぐ火災に国際的な批判が高まり、ボルソナロ大統領は消火活動に軍を派遣することを認めた。火の勢いは弱まりつつある。

トランス・アマゾニアン・ハイウェイのうち、テンハリム先住民の居住区を通過する区間では、放水する飛行機用の燃料を運ぶ軍用車両やトラックが日常的に見られるようになった。

居住区で暮らす部族の代表者、マルシオ・テンハリム氏は、住民が受けたダメージを世界に知ってほしいと願っている。ひたすら嘆き悲しむしかない、と同氏は言う。

「儀式を行い、森が燃えた悲しみを歌う」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。



ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BBC、ガザ番組に「ガイドライン違反」 ナレーター

ビジネス

世界スマホ出荷台数、第2四半期は伸び鈍化 関税巡る

ワールド

中国が外交攻勢強化、米国の国際的プレゼンス縮小背景

ワールド

豪軍が初のハイマース実弾発射、米日など19カ国の大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中