最新記事

インタビュー

「貧困の壁を越えたイノベーション」湯浅誠がこども食堂にかかわる理由

2019年7月15日(月)12時15分
Torus(トーラス)by ABEJA

torus190715yuasa-5.jpg

こども食堂を広げる活動に加わったのは、2016年春、東京・池袋でこども食堂をしていた栗林知絵子さんに相談されたのがきっかけです。

実行委員会をつくり、彼女たちと3年かけて全都道府県を回って、こども食堂の必要性を伝えました。私は半分くらいの自治体で基調講演をしたかな。

どこに行ってもやりたい人はいた。ただ、地元で言い出せない雰囲気が根強くある地域もあった。だから知事に応援団として出てきてもらった県もあります。知事が応援する姿勢を見せれば、こども食堂を遠巻きに、それもなんとなく歓迎しない感じで見ていた人たちも動き出すようになるから。

将来は小学校区に1つ、くらいのインフラになればと思っています。だからいずれ、3700カ所のこども食堂の住所を国土地理院のデータベースに落とし込み、小学校区別の「こども食堂ゼロ地域」を特定する調査に取り組みたい。そのデータで自治体と議論できたらと考えています。

インフラになるというのはたとえば「交通安全の見守り」並みの日常風景になることです。登下校中に子どもたちを見守る地域の人、何かあったらうちに駆け込んできたら110番してあげる、というプレートが玄関口や店口に貼られている風景、よく見かけますね。

インフラになるとやれる人がやる、が当たり前になる。「あなた、すごいことをしてますね」なんて言われなくなる。交通安全の見守りで、子どもの見守りは親の責任だろ、他人が手を出すな、みたいなことは、もはや誰も言わないでしょう。インフラになるということは、そのくらい日常のレベルになるということです。

その点、こども食堂はまだ「すごいことやっていますね」という特別扱いの段階にとどまっています。「やって意味あるのか」「他人がそういうことに口出ししていいのか」「親の責任はどうする」と、反発や批判も受ける存在でもあります。

こども食堂が「特別」で、交通安全の見守りが「日常」と仕分けられていることに、合理的な理由はありません。人々の頭の中で、こっちは日常、あっちは特別、と仕分けているだけです。

だから、子ども食堂はまだ「親の責任どうなる」と言い出す人がいるけれど、「日常」の世界にいったん入ってしまえば、親の責任とは言い出さなくなる。

なぜ人は、そういう風に仕分けるのか? それはまあ...人ってそういうもんですよ。

生活保護を受けることへの批判にも、その仕分け方のせいでさんざん苦労してきました。生活保護の人たちはパチンコ行くな、酒飲むな、と言われてきました。その理由は「税金だから」。年金も、半分は税金から出ていますよね。でも、年金生活者はパチンコや酒を飲んでも何も言われない。むしろ、ささやかな楽しみはあっていいよね、という感じです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中