最新記事

インタビュー

「貧困の壁を越えたイノベーション」湯浅誠がこども食堂にかかわる理由

2019年7月15日(月)12時15分
Torus(トーラス)by ABEJA

一つ目は「貧しい子ってそんなにいるの」という「壁」。自分の周りにそういう境遇の子どもはいないと思う。「見えない」から当然です。だから日本の子どもの7人に1人が貧困状態、と説明されてもさっぱり実感がわかない。

そういう人たちが考える「貧しい子ども」のイメージって、「道端に寝ている子ども」です。そのくらいディープな光景を思い浮かべるから「自分にできることなど何もない」と考える。

そんな深刻な家庭に入っていって、複雑な家族関係を調整するなんて「難しすぎてとてもじゃないけど私は無理」という二つ目の「壁」がここでできる。なので、福祉の専門職や自治体職員など「やるのが仕事になっている人」以外になかなか広がっていかない。

torus190715yuasa-4.jpg

貧困は、日常のかかわりあいの中でふとした拍子に「発見」されることが多いです。

たとえば、子ども会の活動でワイワイ集まっていたら、出されたコロッケを見たことも食べたこともないという子がいると気づく。

コロッケを見たことも食べたこともない子は、ボロボロの服を着ているわけでもないし、道端で寝ているわけでもない。だから表面上はさっぱり分からない。でもそういう時に気づくんですね。ああ、周りにいないと思っていたけど、いたんだなって。「じゃあ、この子に次はメンチカツでも食わせてみるか」と始めるんです。

「次はメンチカツでも」と思った人が、もしその子と何もかかわってない時に「あなたの住む地域にコロッケを見たことも食べたこともない子がいるんですが、何かできることはありますか?」と聞かれたら、たぶんこう答えるでしょう。

「難しすぎてそんなことにかかわれない。そういうのは役所の人がしっかりかかわってほしい」

だけどかかわった後に気づけば、抜き差しならなくなってかかわり続けるんです。そうやってすそ野を爆発的に広げていったんですよ、こども食堂は。

この国の空気が、ちょうど「揺り戻し」の時期に入っていたことも大きかったと思います。高度成長期以来「しがらみは面倒だ」とつながりを捨てて便利さを追い求めてきた。ネットショップでボタンをポチッとクリックすれば欲しいものが買えて、一人暮らしでも困らない。どんなにユートピアだろうと思い描いていた暮らしが実現してみると、そんなユートピアでもないと分かってしまった。

そこに東日本大震災をはじめとした各地の災害がボディーブローのように響き、「1人の気楽さ」より「1人の寂しさ」、「2人の面倒くささ」より「2人の楽しさ」に、ちょっと重心が移ってきた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中