場当たり的なトランプ流外交が墓穴を掘る日
Trump Boxed Himself In
北朝鮮の国営メディアは、これを「最終提案」だとしている。トランプは今回、「交渉を再開する合意」を大きな成果だとしているが、一体何を交渉するのかは不明だ。過去の米朝交渉は、北朝鮮が核開発を完全に放棄することを明示的な目標に据えてきた。トランプが金の「最終提案」を一部でも受け入れて交渉を再開するなら、それはアメリカにとって巨大な譲歩だ。
「ディールの極意」の結果
トランプは、取りあえず交渉を続けることで(そして米韓合同軍事演習を中止することで)、北朝鮮による長距離ミサイルや核兵器の発射実験を凍結させようとしているのかもしれない。かつてトランプが任命したニッキー・ヘイリー国連大使(当時)は、この案を「屈辱的」として拒絶したものだが、今やトランプは、北朝鮮が近年これらの実験を行っていないことを、自らの大きな功績だとしている。
トランプは、北朝鮮に最大の圧力をかける戦略に戻ることもできないし(そんなことをすれば北朝鮮も核実験を再開する)、北朝鮮が非核化を実行する前に制裁を撤廃することもできない(そんなことは米議会が許さない)。つまり対北朝鮮外交でも、トランプは身動きが取れなくなっている。
中身はないが(ともすれば破綻しているが)、派手な取引に派手に投資して、派手に注目を集めることで、都合の悪いことから世間の目をそらす――。このパターンが、トランプのカジノビジネスにおける「ディールの極意」だったことは、専門家でなくても分かるだろう。
その結果、ビジネス界でトランプを信用するまともなパートナーはいなくなってしまった。同じことが外交の世界で起きようとしている。特にアジアでは、伝統的な同盟国がアメリカから離れていく恐れがある。
筆者はG20サミットのとき、日本と台湾の政府高官がトランプの言動にこれまでにないレベルの不安を示すのを目の当たりにした。トランプが訪日直前に、日米安保条約を不公平だと攻撃する一方で、北朝鮮には柔軟な態度を示したことは、関係各国を大いに当惑させた(トランプは、アメリカが日本を防衛するために戦っているとき、日本は「ソニーのテレビで見ているだけ」と語った)。
試されるアジアの同盟国
日本、韓国、そして台湾の企業は今、トランプの対中追加関税が恒常化すると考えて、サプライチェーンから中国を除外しつつある。これは対中強硬派のロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表にとっては勝利といえるが、事はそう単純ではない。