最新記事

米外交

場当たり的なトランプ流外交が墓穴を掘る日

Trump Boxed Himself In

2019年7月9日(火)15時40分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所〔CSIS〕上級副所長、ジョージタウン大学教授)

南北朝鮮の軍事境界線で金正恩と会い注目を集めたトランプだが KCNAーREUTERS

<中国と北朝鮮に気が付いたら譲歩──カジノ流の「ディール」外交はいずれツケ払いを迫られる>

この3日間はすごいことがたくさんあった。多くの成果があった! ドナルド・トランプ米大統領が、そんな上機嫌なツイートをしたのは6月末のこと。

その週末、トランプは大阪で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と会談し、膠着状態にあった米中貿易交渉を再開することで合意。さらにその後、南北朝鮮の非武装地帯を訪問して、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と電撃会談し、世界中のメディアをにぎわせた。

だが、こうしたトランプの場当たり的な外交は、自らの手足を縛る結果をもたらしている。

確かに習との首脳会談は、金融市場とアメリカの農家を安堵させた。トランプと習は貿易交渉を再開すること、そしてその間、アメリカは中国製品に対する新たな追加関税を課さず、中国はアメリカの農産物を購入することを約束したというのだ。

だが、この合意で、中国側はなんら目に見える譲歩をしていない。そもそも中国は追加関税に関して、トランプが身動きを取れないことを知っていた。攻撃の手を緩めれば、来年の大統領選のカギを握る米中西部の労働者階級にそっぽを向かれる恐れがある。その一方で、追加関税の規模を拡大すれば、中国の報復関税を招き、既に大打撃を受けている農家(やはりトランプの重要な支持層だ)を苦しめることになる。つまりトランプは手詰まり状態にあったのだ。

一方、追加関税以外の部分では、トランプは明らかに譲歩した。米政府は国家安全保障上の懸念があるとして、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)との取引をやめるよう国内外に働き掛けてきたのに、それを部分的とはいえ(しかもファーウェイ側の状況は何も変わっていないのに)撤回した。このことは、トランプ政権の信憑性を傷つけた。

大阪でのG20サミット後、トランプは朝鮮半島へと飛び、金とも核問題に関する米朝交渉を再開することで合意した。

2月にベトナムで行われた米朝首脳会談が物別れに終わったのは、北朝鮮が「核兵器とミサイル開発計画の相当部分は維持するが、寧辺の核施設に国際的な査察を受け入れるので、アメリカは経済制裁を緩和するべきだ」という立場を堅持したからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中