『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?

2019年7月31日(水)13時15分
古谷経衡(文筆家)

しかし今回、N国による「NHKをぶっ壊す」という主張自体が「保守派やネット右翼」にとってトレンドではなく、古典としてはるか昔に消費されつくしたものであり、「保守界隈」「保守論壇」は「次世代の党」の時とは違って、N国を応援することはなかった。

試しに『正論』『WILL』『HANADA』『VOICE』などの右派系雑誌を見てみるとよい。2014年にはあれだけあふれた(当時、『HANADA』は存在しなかったが)旧次世代の党への応援と違って、N国への援護射撃は皆無に近いのである。

つまり『NHKから国民を守る党』はネット右翼政党でないし、「保守派やネット右翼」のトレンドをトレースしているわけでもない。愚直なまでにNHKへの呪詛を言い続ける。とにかく徹底的に首尾一貫したNHKへの呪詛。―なぜこの党が、参院で1議席を得たのだろうか?そもそも、N国とは何なのだろうか?

5)ネット右翼の古参兵たち

私にとってN国党の正体が明瞭に見えはじめたのは、2019年4月に行われた統一地方選挙における同党の「躍進」である(―当然もうこの段階では、何年も立花氏に会っていない)。同選挙でN国は地方議会に20議席以上を確保した。そしてその候補者は、「ああっ、懐かしい!」と私が思わず叫んでしまうような、2010年前後にネット世界のみでちょっとした有名人であった人々の顔ぶれであったことだ。

元在特会"在日特権を許さない市民の会"会員で「徳島県教祖襲撃事件(2010年―徳島県教育委員会が反日組織であるとして、事実上の在特会の関西支部"チーム関西"が同会の建物に不法侵入して職員らに危害を受けた事件)」で起訴された関係者。同じく2010年~11年ごろ、今でいうユーチューバーとして嫌韓・ヘイトを垂れ流していた動画主(ただし、ニコニコ動画やニコニコ生放送を含む)。「アイヌなんかもういない」と発言して自民党札幌市連を除名されて落選した元札幌市議、などなど。

私にとって「見知った顔」がたくさんあった。むろん、全く知らない顔ぶれもあったが。つまり彼らの正体というのは、「2010年~2011年前後」という、ネット右翼の最盛期に、「保守論壇」には相手にされないが、動画を通じて「ネットではちょっとした有名人」だった、狭い右派社会における「ネット右翼の古参兵たち」なのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中