最新記事

宇宙

イトカワ着陸から14年、はやぶさ2のサンプル採取装置の性能は実証された

2019年7月17日(水)17時30分
秋山文野

砂地でも、一枚岩でも活躍できるサンプル採取装置

DSC06524.JPG

7月11日当日、藤原顕教授ははやぶさ2第2回タッチダウンの広報中継番組に出演。JAXA 宇宙科学研究所の管制室のそばで、開発に携わったサンプラホーンの活躍を見守った。撮影:秋山文野

はやぶさ2のサンプル採取方式は、多少の改良はあったものの初代はやぶさと同じだ。元になるアイディアを発案したのは、初代はやぶさのサイエンスマネージャである藤原顕教授。はやぶさ開発時の宇宙科学研究所(現:JAXA 宇宙科学研究所)で「二段式軽ガス銃」という高速で弾丸を発射する実験装置を用いて、宇宙の微小な岩石衝突を再現する高速の弾丸衝突・破壊実験を行っていた。日本における惑星衝突実験分野の第一人者だ。

小惑星表面から砂を採取する、といえばシャベルのようなものですくい取るといった方法が考えられる。またNASAが現在運用している小惑星探査機OSIRI-RExは、窒素ガスを吹き付けて舞い上がった砂をキャッチするという方式を採用している。

だがはやぶさ開発当時の1990年代、小惑星表面の「地図」は存在しなかった。行ってみなくてはわからない小惑星の表面が、シャベル式装置に向いた砂地ばかりとは限らない。小惑星の表面は100度以上の温度になる可能性もあり、探査機が損傷しないように一瞬で着陸とサンプル採取を終えなくてはならない。電気で駆動する複雑な採取装置は、万が一装置が壊れたら何もできない。

そこで藤原教授が創案したのが、小惑星という環境でこれまで数え切れないほど起きてきた、衝突という現象を再現するサンプル採取装置だ。弾丸を打ち出して表面に衝突させ、巻き上げた細かい砂をキャッチする。着陸は一瞬で終わり、探査機はすぐ安全な高度まで上昇できる。はやぶさの目的地、小惑星イトカワで着陸場所が砂地でも、一枚岩でも活躍できるユーティリティープレーヤーだ。

イトカワから14年、採取装置の性能は実証された

考え抜かれたはやぶさのサンプル採取装置だが、2005年11月26日に行われたイトカワへの着陸の際、プログラムの問題により弾丸が発射されなかった。着陸の際に舞い上がった微粒子がサンプルコンテナの中に入っていたため、地球へサンプルを持ち帰ることはできた。だが、サンプル採取装置の真の性能を実証する機会は、14年後のはやぶさ2着陸ミッションまで持ち越されることになったのだ。

2019年2月のはやぶさ2第1回のタッチダウンでは、探査機はうまく砂礫の上に着陸して砂を巻き上げることに成功した。サンプル保存室には、計画通りたくさんのサンプルが入っていることが期待されている。そして2回目の着地では、ついに岩の上でも同じようにサンプル採取装置が機能することを実証してみせたのだ。

「惑星リュウグウも仲間です」

DSC06792.JPG

リュウグウへの想いを語る津田雄一プロジェクトマネージャ。撮影:秋山文野

記者会見で、はやぶさ2チームの津田雄一プロジェクトマネージャは、これまでチームに苦闘を強いてきた小惑星リュウグウに対し「これまで、牙を剥いたとか言って申し訳ないと思っています。リュウグウも仲間です」と述べた。

厳しい条件であることを予想して、そのために相手を知り尽くし、準備をしつくしてきたからこそ、リュウグウという天体が仲間だと思えるのかもしれない。リュウグウは祝福するかのように、2回目のタッチダウンでも舞い上がる砂礫の花吹雪を見せてくれた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中