最新記事

中東

オマーン沖のタンカー攻撃、イランによる米対抗策なら危険な賭けに

2019年6月20日(木)14時37分

ホルムズ海峡近くで起きたタンカー攻撃について専門家は、もしイランが背後にいたとすれば、海運交通の要衝における同国の影響力誇示という狙いに合わせて綿密に練り上げられた計画とみている。写真は13日、オマーン湾で攻撃を受け炎上するタンカー(2019年 ロイター/ISNA)

ホルムズ海峡近くで起きたタンカー攻撃について専門家は、もしイランが背後にいたとすれば、海運交通の要衝における同国の影響力誇示という狙いに合わせて綿密に練り上げられた計画とみている。ただ、もしそうだとしても、そうした戦略は米国の対イラン制裁への対抗策としてはリスクの高いものだという。

イラン海軍で18年の軍歴を持つ軍事アナリスト、フセイン・アルヤン氏によると、13日に発生したタンカー2隻への攻撃は航行中に行われ、停泊中のタンカーが狙われた前月の事件よりもかなり難度が高い。

攻撃を受けたタンカーを保有する日本の海運会社の幹部は先週、乗組員から飛来物の報告を受けたと説明した。

しかし、アラヤン氏によると、このタンカーや、13日に別のノルウェー船籍のタンカーを攻撃した者は誰であれ、停泊中にタイマー式の爆破装置を磁石で船体に吸着させたか、あるいは航行中にボートや水中ドローンを使って吸着させたと分析する。

米国と欧州でそれぞれ安全保障を担当する政府関係者2人も、重傷者を出すことなく船体に損害を与えるという洗練された攻撃で、緻密な計算をうかがわせると話す。攻撃は、イランが望めば混乱を引き起こせること、ただし今はそれを望んでいないことを示す狙いがあったように見えるという。その目的は、紛争の引き金を引くというよりは、米国や他の敵対国に抑制を促すことにあるように見えるとしている。

この米欧の政府関係者2人は、イランが攻撃に関与したという直接の証拠は示さなかった。

米国はタンカー攻撃にイランが関わったと断定し、イラン革命防衛隊の関与を示す証拠と主張する映像を公表。一方のイランは関与を全面的に否定し、米軍が公開した映像は何の証拠にもなっておらず、イランはスケープゴートにされたと主張している。

シンクタンク「クライシス・グループ」のイランプロジェクトのディレクター、アリ・バエズ氏など中東専門家は、もしイランが関与したとすれば、イランが世界の石油供給を脅かし得ると示そうとしたのは明らかで、米国や他の反イラン陣営がさらに対イラン圧力を強めるのを食い止めようとの考え方だとみる。

米国防総省は17日、中東に約1000人の米兵を追加派遣すると発表したが、バエズ氏によるとこれまでのところイラン政府には、こうした動きに屈服する様子はみえない。「イランへの圧力を最大限に強めようとする米国の戦略はイランを抑え込むためとされていたが、皮肉にも実際には裏目に出ている」

英海軍の指揮官だったトム・シャープ氏は、イランは比較的低いコストで相手に大きな被害を与える「非対象攻撃」手段を取ることができると指摘。「彼らには集団攻撃の訓練を積んだジェットスキーや高速艇がある。1000ポンドのこうしたジェットスキー1台で、10億ドルの戦艦の機能を無効にできる」という。

しかし専門家によると、イランにとっても危険なのは、小さな偶発的事件が急速に事態を悪化させる恐れがあるという点だ。ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所のアリ・アルフォネフ上級研究員は「イランが危険な賭けに出る場合、それが最終的には、イランには手に負えない戦争を引き起こすかもしれない」と述べた。

(Babak Dehghanpisheh記者)

[ジュネーブ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、機関投資家向け仮想通貨取引サービス検

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、利益確定が上値抑制 マイ

ビジネス

米国との貿易協定、来年早々にも署名の可能性=インド

ビジネス

為替、ファンダメンタルズ反映しているとは到底思えず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中