最新記事

日本社会

抵抗なければ合意? 相次ぐ性犯罪「無罪判決」に法改正求める切実な声

2019年6月18日(火)17時32分

日本で相次ぐ性犯罪の無罪判決、法改正求める切実な声。写真は性暴力被害の当事者団体「スプリング」の山本潤代表理事。都内で5月31日撮影(2019年 ロイター/Linda Sieg)

年の離れた男にレイプされたとき、白川美也子さんは19歳の大学生だった。暴行が始まったとき彼女の体はフリーズし、その瞬間の記憶が飛んだ。そして、気が付いたときには加害者が自分の上に乗っていたという。

現在は精神科医として性的虐待の被害者の治療にあたっている白川さん(54)は、この反応は「一般的で本能的な反応であり、心理的な自己防衛の一形態だ」と語る。白川さんはこの暴行の結果として妊娠したが、警察には通報せず、中絶手術を受けた。

日本の法律では、被害者がその場で抵抗しなかった場合、検察がレイプを立証することが不可能になることがある。

国会は2017年、100年以上前に制定された性犯罪に関する改正刑法を可決し、法定刑の下限引き上げを含む厳罰化などを決めた。しかしこの改正刑法は、暴行や脅迫があった、もしくは被害者が抗拒不能(抵抗が困難な状態)であったことを検察が立証しなければならないという要件を残したままだ。

ここ数カ月で性犯罪に対する無罪判決が立て続けに出ており、この要件に関する批判が再び噴出している。

白川さんらは、この刑法の基準は被害者に不当な負担を強いるもので、被害を届け出る妨げとなり、届け出たとしても裁判で加害者を有罪にできる可能性を引き下げていると指摘する。

同法の改正を求める人々は、英国、ドイツ、カナダなどといった先進国と同じように、同意のない性交全てを犯罪とするべきだと訴えている。

作家で活動家でもある北原みのりさんは、最近の無罪判決に抗議するデモを企画した一人。「世界では、被害者の視点に立って性暴力を語るということが今の潮流」と語り、それが出来ていない日本の司法や社会は、見直しをするべき時期だと述べた。

一例としては、名古屋地裁支部で3月、19歳の娘をレイプした父親が無罪となった。

判決要旨によると、裁判では性交が被害者の意に反するものであったこと、若いときから被害者が暴力を振るわれ、性的虐待を受けていたこと、そして暴行は相応の強度をもって行われたことが認められた。しかし裁判官らは、「抗拒不能」の状態に陥っていたと断定するには疑いが残る、と結論付けた。検察は控訴している。

性犯罪の裁判に関わる村田智子弁護士は、これは「心理的な抗拒不能というのを非常に厳しく認定した判決」だと語る。

こうした判決に抗議するデモが毎月開催され、参加者は抗議活動のシンボルとして花を掲げている。

性暴力被害の当事者団体「スプリング」の代表理事で、自身も被害者である山本潤さんはロイターの取材に対し、「いま、メディアは判決や抗議について取り上げ報道している」と述べ、現状が間違っていると思う人が増えれば、声があげられない人たちの力になる、と語った。

「スプリング」は5月、法務省および最高裁に法改正を求める要望書を提出した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中