最新記事

金融

「魔の時間」襲うフラッシュクラッシュは為替市場の新常態になるか

2019年6月7日(金)12時31分

緊急停止ボタン

為替取引の大半は人間の代わりにアルゴリズムとして知られるコンピューターシステムによって行われており、銀行のコスト削減と取引執行のスピードアップに貢献している。

スムーズな取引を行うために、アルゴリズムは取引数量を小分けにし、流動性が高いプラットフォームを探す。

しかし、市場の状況変化によって問題も起きる。たとえば取引量が突然激減したり、英国がブレグジットの延期を検討した際のように通貨の乱高下が起きたりした場合、アルゴリズムは取引を停止するようにプログラムされていることが多い。

匿名で取材に応じた中央銀行関係者2人は、そのような「緊急停止ボタン」が急激に流動性を下げると語った。

あるデータによると世界に70以上の取引所が散在する中、常に変動する外国為替相場はアルゴリズムに依存しているため、システムによる取引停止が広がると取引量は急速に低下し、相場の変動幅がより大きくなる。

今年最初のフラッシュクラッシュは1月3日発生。東京市場が終わった後で、円がドルに対して急騰した。たった7分間で、対豪ドルで8%高、対トルコリラでは10%高となった。

2度目のフラッシュクラッシュは2月11日に起きた。スイスフランが乱高下し、ほんのわずかの間、ユーロとドルに対して不可解な急騰を見せた。

オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)のレポートによると、ウィッチングアワーに複数のフラッシュクラッシュが起きている。また、2016年10月7日のアジア市場の序盤で英ポンドが数分間で1.26ドルから1.14ドルへ9%暴落したのも、取引が薄いこの時間帯だった。

RBAによるフラッシュクラッシュの分析では、アルゴリズム取引戦略が「増幅器」となって発生したと結論付けている。

人間のトレーダーであれば、そのような嵐の中でチャンスを見出し、暴落した通貨に買い注文を入れるということができる。これは相場が落ち着く要因にもなる。しかし、今やそれができるトレーダーの数が少なすぎる。

2004年、すべての為替取引は人間の手で行われていた。現在、電子取引プラットフォーム、EBS上で行われる全取引のうち最大7割はアルゴリズムによって行われている。

銀行は常に予算削減の圧力にさらされており、さらに金融危機後の規制により為替取引コストは過去にないほど高くなる中で、さらに余分な員を雇ったり、既存スタッフを深夜シフトに回す兆候は見られない。

それどころか、休日など取引が薄くなることが予測できる時間帯には、取引を控えるところも一部出てきている。

一方、システム取引は今後さらに市場を支配するとみられる。

プラグマは、特に新興市場でノンデリバラブル・フォワード(NDF)取引を行うためのアルゴリズム運用を始めた、と同社のカーティス・ファイファー最高業務責任者は言う。こうした流動性の低い新興市場通貨のエクスポージャーをヘッジするためのデリバティブ取引は、これまで、電話を利用するボイス・トレーダーが中心だった。

「スポット取引が一般化し、収益が縮小した現在、銀行における為替取引は厳しいビジネスだ」とスマート・カレンシー・ビジネスのシニアコンサルタント、ジョン・マーレ―氏は語る。「さらに、以前より資金が必要なうえにリスク選好度も低いことから、銀行は自己勘定売買を行うデスクもなくしている」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中