最新記事

自然

人を襲う「生きた恐竜」の島閉鎖 インドネシア、ドラゴンとともに観光収入も絶滅回避へ

2019年4月25日(木)19時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

相次ぐ密輸事件が個体数減少に拍車

2019年3月、東ジャワ州警察、中ジャワ州警察は海外にコモドドラゴンを密売しようとしていたグループをジャカルタ、スラバヤ、バリ島でそれぞれ摘発、子供のコモドドラゴンを含めた41匹を保護するとともに、天然資源保護法違反容疑でインドネシア人5人を逮捕した。

その後の捜査で5人はタイやベトナムなどの密輸業者と結託してコモドドラゴン1匹を5億ルピア(約390万円)という値段で海外に販売する予定だったということが判明、コモドドラゴンだけでなく希少動物を密売する東南アジアにまたがるシンジケートの存在が浮かび上がっているという。

このときの摘発は2月下旬にスラバヤ市内の住民から警察に寄せられた情報に基づき子供のコモドドラゴンを違法に飼育していた2人を逮捕したことが端緒となったとされている。

入園料の大幅値上げより生息地の閉鎖へ

コモドドラゴンに関しては過去にも密猟、密輸が摘発されたこともあり、政府、環境保護団体などからこれまでの観光資源としてのコモドドラゴンの扱い方を見直す声が出ていた。

現行のインドネシア人5,000ルピア(約40円)、外国人15万ルピア(約1,200円)の入園料をそれぞれインドネシア人100米ドル(約1万1,000円)、外国人500米ドル(約5万5,000円)に大幅値上げする案も一時検討された。

世界的観光地でもあるバリ島から小型飛行機でコモド観光の玄関口となるフローレス島ラブハンバジョーまで約1時間半、そこから高速船艇でさらに1時間半でたどり着くコモド島は秘境感にもあふれ、バリを訪れた観光客が足を延ばすケースが多い。

2018年1月から8月までに約12万7000人がコモド国立公園を訪れ、このうち外国人観光客は8万3000人と全体の65%を占めたという。

こうしたなか、地元紙「テンポ」が3月29日、インドネシア政府、地元州政府などが入場料の値上げでは対策として不十分との判断などから2020年1月からコモドドラゴンが1800頭と最も集中して生息しているコモド島に限って観光客の訪問を全面的に禁止する方針を決めたことを報じた。

禁止措置がどのくらいの期間継続されるのかは明確ではなく1年間との情報あるが、コモド島を除く他の島への訪問はこれまで通りとする方針だという。

観光客の訪問禁止期間中に環境当局や地元政府ではコモド島のコモドドラゴンを取り巻く自然環境を整備するとともにシカなどのエサを十分確保して個体数を増やすことを計画している。

東南アジアはインドネシアやタイ、フィリピンのように外貨獲得の重要な資源でもある観光業の促進、自然環境保全や希少動物保護の両立という難しい問題に直面しており、今後もこうした立ち入り制限や禁止という措置で対応していくケースが増えることが予想されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有

ビジネス

FOMCが焦点、0.25%利下げ見込みも反対票に注

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使らと電話会談 「誠実に協力し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中