最新記事

アジア

ミャンマー仏教徒武装集団が警官9人殺害、兵士9人拘束か スー・チー、紛争泥沼化に苦慮

2019年3月14日(木)12時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20190314_120133.jpg

アラカン軍(AA)の射撃訓練  Radio Free Asia - YoutTube

政府はAAをテロ組織として壊滅作戦中

ミャンマーではアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相率いる政府が武装闘争を続けていた少数民族組織との間で2018年12月に「4か月の停戦」を実現し、停戦・和平交渉を進めており、これまでに10組織が和平プロセスへ参加し、停戦に応じ、署名している。

しかし戦闘状態が続くラカイン州のAAはこの和平プロセスから除外されている。そうした中で2019年1月にAAがブティダン町区で警察駐在所を襲撃、警察官13人が死亡、9人が負傷する事件が起きた。事態を重視した政府は国軍兵士数千人規模をラカイン州に増派してAA壊滅作戦に乗り出した。

政府はAAを「テロ組織」として説明しており、それによって軍事作戦、攻撃を正当化し、国内外の理解を得ようとしている。

そうした緊張状態で発生した3月9・10日の連日に及ぶ戦闘では、AA軍に対して攻撃を仕掛けた国軍が一時的とはいえ戦略拠点からの後退を余儀なくされ、多数の武器、資材を奪取されたうえに9人の兵士が捕虜として捉えられた。さらに翌日には4か所の小規模警察官駐在所がほぼ同時に襲撃を受けて警察官が9人も死亡。AA軍の攻勢に敗れた国軍と警察の治安組織、そしてミャンマー政府は衝撃を受けている。

スー・チー政権は民主化を実現させるために不可欠な憲法改正で国軍との意見調整に手間取っており、また少数民族武装組織とは停戦合意期間中の4月までに和平交渉プロセスを進展させなければならない。そうしたなか、ラカイン州ではAAとの激しい戦闘、さらに少数イスラム武装組織である「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」とも武力衝突があり、内政問題は深刻かつ切迫している。スー・チー政権は当面極めて難しい舵取りが続きそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中