最新記事

中国

全人代「日本の一帯一路協力」で欧州への5G 効果も狙う

2019年3月11日(月)13時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

寧副主任の発言は中日が「一帯一路」を共同建設するための明確なシグナルであると、多くの中国メディアが報じている。そして必ず中日共同建設をモデルケースとして、さらに多くの国々を誘い込んでいくだろうとしている。

6日の中国共産党機関紙「人民日報」の海外版は、「宣言!中日が共同建設する"一帯一路"がタイ国に決まった意義は深遠である」と、一歩踏み込んだタイトルで日本の「一帯一路」協力を断定形で讃えている。おまけに「宣言!」という表現まで使って、その断定が確固たるものであることを世界に発信しているのだ。

日本政府は中国との第三国における経済協力について「一帯一路」とは関係ないと主張し続けてきたが、中国での位置づけは全く異なるし、世界も「一帯一路」の一環だとしか見ていない。筆者は必ずそうなると主張し続けてきたが、今回の全人代は、それを否定の余地がない形で世界に発信した。

その勢いで、ヨーロッパを5G でも誘い込む

話はそこに留まらない。

3月8日の中央テレビ局CCTVは、全人代の特別番組として日中の「一帯一路の共同建設」を礼賛した後、「5Gに関して、ヨーロッパを中国側に誘い込む」解説を行なった。つまり、ヨーロッパ市場が中国側を向くか、アメリカを向くかによって、次世代移動通信システムに関する世界の趨勢が決まっていくと解説委員が分析したのである。

これら一連の流れから、以下のような中国の目論みが読み取れる。

1.一帯一路における中国の野心に関して、2017年辺りからヨーロッパ諸国が不信感を持ち始めたので、日本を誘い込み、ヨーロッパ諸国が離れていくのを喰い止めようとした。高利子と借金漬けによる債務の罠などが問題になっており、おまけに中国はシーレーンの要衝となる沿線国の港を半植民地化して軍事拠点化しようとしていることが見えてきたため、ヨーロッパ諸国は「一帯一路」構想と距離を置き始めた。そこで中国はアジア開発銀行などを通して信用を得ている日本を一帯一路に誘い込み、「あの日本が入ったのなら大丈夫だろう」と、ヨーロッパ諸国を踏み止まらせようと目論んだ。

2.中国はこれまで、一帯一路やそれと対を成すAIIB(アジアインフラ投資銀行)を先進諸国にも呼びかけるに当たって、まずイギリスに照準を当て、イギリスに参加を表明させた。これに関しては、2015年3月2日付けのコラム<ウィリアム王子訪中――中国の思惑は?>や同年10月19日付のコラム<習近平主席訪英の思惑 ― 「一帯一路」の終点>などで何度も書いてきた。中国の戦略は見事に当たり、フランスやドイツなど、主要なヨーロッパ諸国が雪崩を打ったように「一帯一路」やAIIBへの参加や協力を表明したため、今では123ヵ国と29の国際組織と171の協力文書に署名するに至っている(データは3月6日の発展改革委員会による発表)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中