最新記事

日本社会

外国人労働者受け入れ5年間で34万5千人へ拡大 「技能実習制度の問題置き去り」の声も

2019年3月19日(火)09時42分

急増するベトナム人

近年、日本で働くベトナム人が急増している。厚生労働省によると、2018年10月末現在、ベトナム人労働者は31万6840人で中国人に次いで多く、前年比伸び率では31.9%とトップを占めている。技能実習生の数でも2016年以来、ベトナムが最大の送り出し国となっている。

この理由について、JETRO(日本貿易振興機構)の研究員・石塚二葉氏は「中国からの技能実習生が減る一方、ベトナムでは高学歴の若年層の失業率が高く、海外に働きに行きたい若者が多い」と分析する。

数が増える一方で、ベトナム人実習生は失踪率が高いなどの問題もある。ベトナム人が留学生や技能実習生として日本に来る場合、本当の目的は出稼ぎというケースが多い。

ベトナム側の送り出し機関に農家の若者などを紹介するブローカーが多数存在し、平均で100万円程度の融資を受けさせて手数料や授業料を払わせるという。「日本で働けば、借金はすぐに返せる」という言葉を信じて来日するが、事前に聞かされていたのとは異なる劣悪な環境で働かされることも多い。

全統一労組が相談を受けた事例では、福島県でベトナム人男性3人が原発事故の避難区域で放射能の除染作業に従事させられた例や、愛媛県では妊娠が判明した女性が、中絶か帰国かを迫られた例もあるという。

さらにSNSなどでこうした窮状を訴える実習生に、ブローカーが、「もっと条件の良い仕事を紹介する」などと言って実習先から逃げることを促すこともある。この場合、実習先から失踪した時点で在留資格を失うので、不法滞在となってしまう。

法務省と厚労省、外国人技能実習機構(OTIT)は3月11日付で、技能実習生に対しても日本の労働関連法が適用されるため「婚姻、妊娠、出産等を理由として解雇その他、不利益な扱いをすることは認められない」とする通達を発表した。

技能実習制度の問題点は積み残し

技能実習制度の下で起こっている問題は、新たな制度の下でも起こり得るとの見方が強い。

技能実習制度では、OTITが「技能実習の適正な実施および技能実習生の保護を図る」との目的で監督を行っていた。新たな制度ではこれにあたる機関はなく、違法な契約や人権侵害をチェックする機能が不透明だ。

賃金については「日本人と同等」とされているが、技能実習制度では法定最低賃金を下回る給料しかもらえなかったケースや、家賃の名目で数万円を給料から天引きされるケースが多く報告されている。こうした問題は、新たな制度のもとでも起こり得る。

新制度の下での特定技能1号では、労働者として最大5年間働けるにもかかわらず、家族を帯同できない。

新潟県見附市の第一ニットマーケティング株式会社で婦人服の縫製をする技能実習生として働くベトナム人のグエン・ティ・トゥイ・フォンさん(29)は、ベトナムに夫と小学生の子どもを残して来ている。

ロイターの取材に対し、彼女は「最初はお金を稼ぐために日本に来たけれど、住んでみると日本は便利だし、空気もきれい」なので、できれば家族で日本に住みたいがそれは許されない、と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中