『ウィキッド』は女性2人の「クィア・ロマンス」である...楽曲「Defying Gravity」に隠されたメッセージとは?
A WATERSHED MOMENT
「自由を求めて」を歌い上げる舞台版のエルファバ(2018年、ドイツ) FRANZISKA KRUG/GETTY IMAGES
<映画『ウィキッド』前編を締めくくる「自由を求めて」は、「虹の彼方へ」や「レット・イット・ゴー」と共に作品を超えた意味を持つ──>
大ヒットミュージカル『ウィキッド(Wicked)』が映画作品に生まれ変わったのを機に、今また観客を魅了しているのが、スティーブン・シュワルツによる印象的な楽曲の数々だ。
「Popular(ポピュラー)」「The Wizard and I(魔法使いと私)」「For Good(あなたを忘れない)」などのヒット曲とそれを歌うヒロインによって、この作品はますます魅力を増している。
多くのブロードウェイ・ミュージカル作品では、男女のロマンスを歌うデュエットが定番だ。だが映画『ウィキッド』では2人の女性主人公、エルファバ(シンシア・エリボ)とグリンダ(アリアナ・グランデ)が、楽曲の大半をデュオで歌い上げる。
なかでも核に据えられている曲が、舞台版では第1幕を締めくくり、映画版前編『ふたりの魔女』ではフィナーレを飾る「Defying Gravity(自由を求めて)」だ。
曲のクライマックスでエルファバは、自分を縛ってきたものを振り払い、「重力(グラヴィティ)」から解放され、魔法の力を受け入れて孤高の道を選ぶ覚悟を決める。
2人の会話に始まり、転調しながらエルファバの決意の叫びへと盛り上がるこの曲は、まさにミュージカルフィナーレの王道そのものだ。エルファバの旅立ちをグリンダが見届けるという点も、このシーンを名場面たらしめている。
何者にも屈せず自分を信じ、ありのままの自分を肯定するというテーマに焦点を当てることで、この曲は『ウィキッド』という作品の枠を超越する意味を持つようになった。
クィアな要素を忍ばせて
エリボはこのシーンについて、エルファバが「自分を傷つけ人間性を奪ってきたものに、もう二度と屈服させられはしない」と決意する重要な場面だと語っている。
ヒロインたちの力強さと2人の友情を描くだけでなく、『ウィキッド』はクィア(性的少数者)な意味合いをほのめかしたミュージカルの1つでもある。
米プリンストン大学のステイシー・ウルフ教授(演劇・ミュージカル研究)は、同作が「エルファバとグリンダのクィア・ロマンスを描いている」と言う。
だからこそ「自由を求めて」は、ミュージカル映画『オズの魔法使』のクィア賛歌である「Over the Rainbow(虹の彼方に)」と肩を並べる。実際、シュワルツは全編を通して何度も「unlimited(限界はない)」という歌詞に乗せ、「虹の彼方に」を思わせる旋律を忍ばせている。
「自由を求めて」の段階的に盛り上がる構成は、同じくクィア要素を持つミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』の「I Am What I Am(ありのままの私)」や、ディズニー映画『アナと雪の女王』の「Let It Go(レット・イット・ゴー~ありのままで~)」にも影響を与えた。
心揺さぶる伴奏と高まっていくボーカルラインは、ミュージカルの伝統を踏襲する。一方で、その音楽スタイルと自己実現のメッセージは極めて現代的だ。
映画『ウィキッド』が世界で上映される今、「自由を求めて」の曲に込められた「誰にでも飛ぶチャンスはある」という思いは、より多くの人の心にいっそう切実に響くだろう。互いの違いを受け入れ、ありのまま生きることを力強く描いたこのミュージカルを象徴する、代表的な一曲だ。
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Hannah Thuraisingam Robbins, Associate Professor in Popular Music/Director of Black Studies, University of Nottingham
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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