最新記事

メディア

ミャンマー国軍最高司令官、朝日新聞の記事に抗議 単独会見記事の事前確認、朝日側「約束した認識はない」

2019年2月25日(月)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ミン・アウン・フライン最高司令官(左)は、ミャンマーにおいてアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相(右)と並んで政治的影響力を持つ Soe Zeya Tun - REUTERS

<民政復帰を果たしたが今も国政に深く関与している軍の最高司令官。その単独会見をした日本メディアの記事が問題になっている>

ミャンマー国軍トップであるミン・アウン・フライン最高司令官が朝日新聞に掲載された自らの会見記事に関して、「記事を掲載する前に事前に見せる」との約束を反故にされ了解なく掲載されたとして、ミャンマーメディア委員会(MPC)に調査と調停を申し立てていることが明らかになった。朝日新聞側は「事前にみせると約束したという認識はない」と反論している。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」(ネット版)によると、朝日新聞ヤンゴン支局の染田屋竜太支局長とバンコクの貝瀬秋彦アジア総局長が2月14日に首都ネピドーでミン・アウン・フライン司令官と単独会見し、翌15日の朝日新聞紙上でその内容を掲載して報じた。

記事はアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相が目指す、軍の政治関与を見直す憲法改正案について「今は政治と治安に安定が必要」と否定的な見解を示したことや、国際社会が人権問題として批判している少数派イスラム教徒ロヒンギャ族への軍の対応について、国際社会に反論するなどの内容になっている。

ミン・アウン・フライン司令官がMPCに訴えているのは「朝日新聞はインタビュー記事の掲載に当たり事前に司令官に原稿を見せる、という約束を反故にして何の許可も同意もなく掲載した」と主張していることで、「これはミャンマーのメディア法に反し、記者としての倫理にも違反している」と主張している。

事前チェックの目的は「内容の誤解や間違いを未然に防ぐこと」としており、報道の自由が制限されたミャンマーでは記事の「事前検閲」が頻繁に実施されている実態が反映された形となっている。

朝日新聞が司令官に謝罪との情報も

日本の新聞社が記事を掲載前に取材相手などに事前にみせることは「報道の自由や中立性」から通常はありえないことだ。ただそこは記者と取材先、情報源との信頼関係で要望してきた相手に対し「口頭で概略を伝える」「機微な質疑に関しては言葉使い、語調などを再確認する」など臨機応変に対応することも例外的ではあるが行われていることは否定できない。

ミャンマーの国軍トップとの会見とはいえ、その国の報道慣習やメディア規則に唯々諾々と従うことは日本の報道倫理の上からみても必要はないといえる。

ただし、会見受諾の条件として司令官や軍当局が「事前のチェック」を提示、あるいは司令官がそうしたことを口頭でも要望し、朝日新聞側が「了解」していた場合は「約束した以上は守るべき」ということになる。

「RFA」によると、朝日新聞はこの件に関して、事前に約束があったのかどうかを含めてコメントをしていないという。

その一方でミャンマー国軍のゾウ・ミン・トゥン報道官はRFAに対し「この件の詳細は承知していないが、朝日新聞が司令官に対して謝罪文を出したと聞いている」と報じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中