最新記事

食料

日本、オランダ、ついにアメリカも 培養肉の時代がやって来る

Clean Break

2019年2月18日(月)15時25分
ジェシカ・アルミー(NPOグッド・フード・インスティテュート政策担当責任者)

オランダ人科学者マーク・ポストによる研究開発の結果、2013年には世界初の「人工肉」ハンバーガーが発表された Toby Melville-REUTERS

<米農務省も監督に乗り出すと発表。牛も豚も鶏も殺さない「人工肉」がいよいよ本格化へ>

「動物なしに肉を育てられるなら、そうすべきではないか」

SF作家やアメリカ動物愛護協会の問い掛けではない。米食肉最大手タイソン・フーズのトム・ヘイズ前CEOが昨年9月の退任の少し前に述べた言葉だ。

タイソンといえば「チキン」と同義と言えるほどのブランド。そのCEOがなぜ食肉生産から動物をなくしたいと考えるのか。

1つには、そうすればもっと効率的に食肉生産ができるから。骨や羽、毛のない肉を生育すれば同じ費用や時間で、より多くの肉が手に入る。

国連食糧農業機関(FAO)は、動物を育てて殺し、食料にすることは「地球温暖化、土地劣化、大気・水質汚染、生物多様性の喪失など、世界的な喫緊の環境問題の主な原因になっている」と指摘する。

2017年に動物の権利擁護シンクタンクが行った調査によれば、70%近くの人が今の食料システムにおける動物の扱われ方に何らかの不快感を覚え、半分近くの人が食肉処理の禁止を支持している。この潮流を確認するためオクラホマ州立大学が行った追加調査でも、同じような結果が出た。

幸い、ヘイズが言うような畜産も食肉処理もなく肉を食べられる世界は現実になりつつある。動物の細胞を培養して作る肉に世界中の企業が取り組み、生産コストも下がりつつある。醸造所のような施設内で育てられたクリーンミートと呼ばれる「細胞ベース」の製品は、私たちがいま食べている肉にDNAまでそっくり。しかも、糞便汚染や抗生物質の慢性使用とも無縁だ。

mag190218meat-2.jpg

CSA IMAGES/GETTY IMAGES

食肉輸出国でいるために

これだけの利点があるのだから、「そうすべきではないか」という問いに反論するのはますます難しくなっている。従来の食肉に対してコスト競争力を持てるよう生産を増やすという課題はあるが、食卓に上げるための大きな科学的進歩は必要ない。

現在の主な問題は、どの国がリードしていくかだ。日本やオランダ、イスラエルの政府は既に研究や新規事業へ投資している。培養肉が対処の一助となれる世界的問題の大きさを考えれば、これらの国々の努力は称賛に価する。

しかしアメリカにとっても人ごとではない。米農務省の推計では、アメリカ人の1人当たりの年間食肉消費量は、昨年は100キロ以上と過去最高になった。

【参考記事】いつまで牛を殺すの? 最先端バイオ技術で培養食肉を量産する日本発「Shojin Meat Project」始動

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米経済は好調、中国過剰生産対応へ

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、大幅安の反動で 次第に伸

ビジネス

都区部CPI4月は1.6%上昇、高校授業料無償化や

ビジネス

アマゾン、インディアナ州にデータセンター建設 11
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中