最新記事

王室

タイ王女の首相選出馬に国王が反対声明 王室内の対立へ発展か

2019年2月9日(土)12時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

自らを一般人と主張する王女に弟の国王はいまだ王族の一員として選挙出馬を批判した Christian Hartmann / REUTERS

<クーデーター以降続いている軍事政権からの民政移行のための総選挙を控えたタイ。だが選挙は候補者の届け出から、王室も巻き込む形となり混沌としてきた>

3月24日に予定されるタイの総選挙で野党の首相候補としてタイ王族のウボンラット王女の名前が2月8日に選挙管理委員会に届けられたことに対し、ワチラロンコン国王が8日夜、全国テレビ放送を通じて声明を発表、「王族の政治への関与は許されていない」として反対する姿勢を明らかにした。

タイでは「絶対的地位」の国王が自らの実姉の政界入りを厳しく批判したことで、王室内部の対立の構図が浮き彫りになり、選挙戦に大きな影響を与える情勢となってきた。

野党「タイ国家維持党」が同党の首相候補者としてウボンラット王女の名前を8日、選管に届けたことはタイ内外で大きなニュースとなった。これを受けて同日夜、ワチラロンコン国王はテレビを通じて「王女は一度王室籍を離脱したとはいえ、依然として故プミポン国王の家族であり、王族の一員であることには変わりない。タイの伝統に従って王女は王族メンバーとして活動しており国民の尊敬を受けている」と前置きしたうえで「こうした王族の高位の者が政治に関わることはどのような形態であれタイの文化、王室の伝統に反するものであり、非常に不適切である」として王女の首相候補への立候補に事実上反対する立場を明確に示した。

タイ王族は憲法、関連各種法規、王室典範などでその法的地位が保障され、王族としての地位と立場への批判、反対、侮辱などは「不敬罪」の対象として訴追され、厳しい処罰を受けることになっている。

王女の政界入りに賛否両論

こうしたいわば「超法規的存在」ともいえる王族が首相候補として名乗りを上げたことにタイ国民の間には大きな衝撃が走っており、賛否両論が渦巻く結果となっている。

「国民の尊敬と信頼の対象」である王族が選挙戦という政治の世界に巻き込まれることで対立候補や政党は表立った「反論、批判、攻撃」が難しくなることも十分予想される。

ウボンラット王女が海外に逃避中のタクシン元首相を支持する政党から出馬したことを「王族の政治利用だ」と反対する声、反対に「国民の統合の象徴である王女の政治参加を歓迎する」という賛成論など、賛否渦巻く様子を9日付けのタイ各紙は伝えている。

王女の立候補届け出を受けた選管は届け出を正式に受理するかどうか依然として明らかにしておらず、判断に苦慮している様子だ。さらに親軍政政党「国民国家の力党」から首相候補として出馬を打診された軍政トップのプラユット首相も、対立候補が王女というタクシン派野党の「隠し玉」を前にして、出馬の正式な受諾を控えているといわれている。

タイ北部、東北部の農民層や貧困層で高い支持を誇るタクシン元首相と妹のインラック前首相の「タイ国家維持党」とその母体である「タイ貢献党」は、タクシン、インラックという2人の首相経験者に加えて王女も陣営に取り込んだことで国会議席でも過半数に迫る勢いとなる可能性が生まれ、総選挙そのものの構図に大きな影響を与えようとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ、北部スムイ州でロシアの進軍阻止 総司令

ワールド

フィリピン、25年の成長率目標を5.5─6.5%へ

ワールド

世銀とIAEA、途上国の原発開発で協力 運転期間延

ワールド

中国軍、戦闘即応態勢強化へ 台湾総統の「1つの国」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 5
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 9
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中