<人気ドラマ『ウォーキング・デッド』の善良で頼りになるグレン役から一転、謎めいた放火魔を演じた韓国系アメリカ人俳優の新たな魅力>

『バーニング』は韓国映画界が今年、アカデミー賞外国語映画賞の出品作に選んだアートシアター系スリラー(日本公開19年2月1日)。村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を韓国の映画監督、李滄東(イ・チャンドン)が大幅に脚色してメガホンを取った。この作品を見て、スティーブン・ユァンの演技力に驚いた人は居心地の悪い事実に思い当たるだろう。

ユァンはFOXの人気ドラマ『ウォーキング・デッド』の善良なグレン役で知られる韓国系アメリカ人俳優だ。『バーニング』で演じるのは、殺人を犯したかもしれない放火魔のベン。遊んで暮らせる特権階級の男だ。

両親が30年近く前に去った韓国に戻らなければ、ユァンにはこんな役柄は回ってこなかっただろう。物語の舞台であるソウルでの撮影は、彼にとっては「よそ者扱い」されずに済む初めての現場だった。主役の3人はそろって印象的な演技を見せるが、なかでもユァンは鳥肌が立つほどいい。これだけの演技ができても、ハリウッドは彼をスター扱いしなかった――居心地の悪い事実とはそのことだ。

今のユァンは自己発見の旅を終えたところかもしれない。ミシガン州での子供時代、「もっと白人らしくなりたい」と思っていた彼が、今はありのままの自分を受け入れている。尊敬する李の下で仕事をした経験が自信につながったようだ。ロサンゼルスのカフェで、スレート誌のインクー・カンが話を聞いた。

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――この映画に出たのは?

李監督と組めるからだ。彼に頼まれたらどんな役でもやる。彼は並外れた才能の持ち主だ。

脚本を読んでみて「この男になりきり、この男の気持ちを感じてみたい」と思った。後で気付いたのだが、今までそんなふうに感じた役柄はなかった。

もともとはほかの俳優がやる予定だったが、僕に話が回ってきた。(李監督は)「韓国系アメリカ人にこの役を演じさせたら、彼の中のアメリカ人らしさが不協和音を立てて、(韓国社会では)『よそ者』に見えるだろう」と考えたのだ。ベンはとても韓国人的だが、それでいてちっとも韓国人らしくない。

――ベンは貧しい青年ジョンスに敬語で話し掛け、慇懃無礼な印象を与える。そこはあなたの演技の素晴らしさだが、(敬語がない文化圏の)観客にはニュアンスが伝わりにくいのでは?

言葉は表層で、その下に潜む人間の感情は共通だと思う。

――その感情とは、ジョンスの幼なじみのヘミをめぐる三角関係のこと?

というより孤独感。相手に思いが伝わらない寂しさ。誰もが抱えている寂しさだ。

韓国人が抱える「恨」の感情