最新記事

司法

ファーウェイCFO拘束は、米国法の「域外執行」という無法

Caught in the Vortex

2018年12月21日(金)15時30分
北島 純(経営倫理実践研究センター主任研究員)

バンクーバーの裁判所前でファーウェイCFOの保釈を求める支持者 Lindsey Wasson-REUTERS

<ファーウェイの孟CFO拘束は起きるべくして起きた――しかし国際政治への司法の乱用は将来に禍根を残しかねない>

上海を流れる黄浦江が長江と合流し海に流れ込む呉淞口では、2つの川と海から成る三色の水が混じり合う。三色は自ずと一つになるが、その有様は捉えどころがない。12月1日、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)副会長兼CFO(最高財務責任者)がカナダで逮捕された事件は、この結節点を想起させる。彼女は3つの国際潮流の渦中に身を置いていた。

第1の潮流は、米国のイラン制裁だ。彼女が逮捕された直接の容疑は、米国のイラン制裁措置に違反したというものだ。ファーウェイは、09年から14年にかけて香港のスカイコム社を通じて通信機器をイランに納入していたが、取引に当たり銀行に対して「スカイコムとファーウェイは無関係」という虚偽の説明を行っていた。しかし、実質的にはダミー会社だった。

第2の潮流が、サイバー安全保障だ。中国政府の国家戦略「中国製造2025」の中でも次世代通信システム「5G」の研究開発で先頭を走るファーウェイに対する警戒と排除の必要性は、米国の軍部・政府・議会の共通認識になっていた。

最後の、そして最大の潮流が、米中貿易戦争いわゆる「新冷戦」だ。中国に対する追加関税措置は累計2500億ドルに達しているが、2000億ドル分の関税引き上げを90日間猶予するという米中首脳会談が開かれた12月1日当日、孟は逮捕された。

こうした3つの潮流がぶつかる結節点に孟晩舟はいた。その意味で今回の逮捕は起こるべくして起きた事件ということになろう。しかし、この事件のもう一つの本質は、米国の連邦法が「域外執行」された点にある。

ライバル国家の悪用も?

孟が米国内で逮捕されていたのなら分かりやすい。しかし、彼女はキャセイ・パシフィック航空で香港からメキシコに移動する間、立ち寄ったバンクーバー空港で逮捕された。17年4月以降、米国当局による捜査が迫っていることを察知していたファーウェイ幹部らはアメリカ入国を避けており、孟も同じだった。その孟がカナダにトランジットすることを察知した米当局が逮捕の2日前にカナダ政府に通告、犯罪人引渡し条約に基づく逮捕を要請したのだ。

カナダにはイランへの経済制裁を科す独自の「特別経済措置法」がある。しかし今回の逮捕で適用されたのは、このカナダ国内法ではなく、米国の経済制裁法令だ。つまり米国法がアメリカ国外で域外執行されたに等しい事態が生じたのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ結ぶ「プーチン—トランプ」トンネルをベーリング

ビジネス

米中分断、世界成長に打撃へ 長期的にGDP7%減も

ワールド

ハマス、武装解除コミットできず ガザ治安管理を当面

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中