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ファーウェイCFO拘束は、米国法の「域外執行」という無法

Caught in the Vortex

2018年12月21日(金)15時30分
北島 純(経営倫理実践研究センター主任研究員)

これまでにも、チリのアウグスト・ピノチェト元大統領が英国滞在中の98年にスペインの判事による逮捕状に基づいて逮捕された例や、15年のFIFA(国際サッカー連盟)汚職事件で、米司法省が米国法を適用して請求した逮捕状に基づきFIFA幹部らがスイス等で逮捕された例はある。しかし、これらは独裁者の虐殺や国際的組織の腐敗が見過ごせないという国際的公益、または普遍的な価値に立脚した法の域外執行だった。

これに対して今回は、覇権を競う大国間のパワーゲームの手段として刑事司法権が乱用されたとも言える。これが前例となり、英国、オーストラリア、ニュージランドなどでも恣意的に執行が拡大される場合、刑事司法権が政治利用されるだけでなく、地政学上の覇権争いの手段に堕することにもなりかねない。つまり米国法に違反する行為があった場合、トランプ政権が気に入らない人物は米国外の協力国においていきなり逮捕される可能性があることになる。

しかし真に恐れるべきは、この方程式をライバル国家も使い始める事態だ。米中のみならず、米ロそして米EUという、いわば三重の新冷戦下で法執行の域外適用が多重化すると、容易に回復し難いレベルに世界は分断されることになる。その混乱は、三色の水のように捉えどころがないものになるだろう。

<本誌2018年12月25日号掲載>


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