最新記事

医療

「セックス依存症」はどこまで病気か

Something to Be Worried About?

2018年12月13日(木)17時30分
サダナ・バラニダラン

アメリカ人の8.6%が性的感情・行動で悩みを抱えているというが PEOPLEIMAGES/ISTOCKPHOTO

<WHOが強迫的性行動症を新たに疾病分類に加えたが、この「病気」に関してはまだ分かっていないことが多い>

この10年ほど、複数の女性との不倫が発覚したプロゴルファーのタイガー・ウッズや、常習的な性暴力を告発された映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンが世間を騒がせるなか、「セックス依存症」という病気が流行しているような印象がある。

もっとも、この「病気」にはまだ分かっていないことが多い。そもそも、そんな病気が本当に存在するのか専門家の意見は一致していない。これは、一つの病気として診断の対象とすべきものなのか。それとも、他の要因が複合的に作用して発生している行動にすぎないのか。

少なくとも、性衝動の問題で苦しんでいる人が大勢いることは確かだ。WHO(世界保健機関)は今年、国際疾病分類の最新版に「強迫的性行動症(CSBD)」を新たに記載した。

この疾患の特徴は、性的な思考や行動を繰り返し、自分で制御できなくなることだ。性的活動の望ましい「上限」は明示されていないが、性的欲求が生活の中で中心的位置を占めれば、精神を痛めつけられたり、生活に支障が出たりしかねない。

JAMA(米国医師会報)ネットワーク・オープン誌によると、2300人を超すアメリカの成人を対象に調査したところ、8.6%は性的感情や性的行動に関して悩みを抱えているという(男性は10.3%、女性は7.0%)。

「マスターベーションのし過ぎで仕事に支障が出ている人もいるし、セックスのために金を使い過ぎて経済的に破綻しかけている人もいる」と、この論文の筆頭著者であるミネソタ大学のジャナ・ディッケンソン研究員は述べている。

セクハラ男が悪用する?

しかし、CSBDの診断基準はまだ確立されていない。ディッケンソンらの研究では、調査対象者に、「性的行動について罪悪感や恥辱感を抱く頻度は?」「性的思考と性的行動が恋愛に害を及ぼす頻度は?」といった問いを尋ね、5段階で自己評価させた。このやり方では、症状を大げさに回答する人がいても不思議ではない。

セックス依存症という診断は、他者に性被害を加える人物によって悪用されかねないと懸念する心理学者もいる。

「女性に偏見を持った利己的な人間を医学上の病気と診断すべきなのか」と、ニューメキシコ州アルバカーキの臨床心理学士デービッド・J・レイは語っている。「富と権力を握る利己的な男たちは、無責任で衝動的な性行動を正当化する道具としてこの概念を長年用いてきた」

セクハラ男を「セックス依存症」と機械的に認定することはやめたほうがよさそうだ。

<本誌2018年12月18日号掲載>


※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相、香港と本土の金融関係強化に期待

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

サムスンSDI、蓄電池供給でテスラと交渉 株価急騰

ビジネス

スタバ、中国事業経営権を地元資本に売却 競争激化で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中