最新記事

映画

愛と死のおとぎ話『ア・ゴースト・ストーリー』

A Philosophical Fairy Tale

2018年11月30日(金)19時20分
デーナ・スティーブンス

幽霊の衣装はシーツに2つののぞき穴を開けたもの (c) 2017 SCARED SHEETLESS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<せりふがほとんどない哲学的なおとぎ話......宇宙的なスケールで生きることの意味を問い掛ける>

デービッド・ロウリー監督の『ア・ゴースト・ストーリー』を見終わって帰る道すがら、仲間の批評家がこう言った。「この映画については『見に行ってくれ』と言うしかない。それが最上の批評だと思う」

彼の言いたいことはよく分かる。上映時間1時間32分のこの幽霊映画は実にシンプル。惜しみない称賛よりも必要最小限の紹介のほうが似つかわしい。

筋書きは一文で語れる。死んだ男が幽霊になって自分の家に戻り、愛する女性を見守り、彼女が去った後もその痕跡を求め続ける。たったそれだけなのに、短い上映時間に悠久の時が流れ、魂の奥深くまで降りてゆくような不思議な感覚を味わう。

映画の始めのほうと終わり近くで2度、満天の星が輝く夜空が映し出される。その間に挟まれたのは宇宙的なスケールの探究の物語だと言うように......。

これはホラー映画ではない。哲学的なおとぎ話だ。心臓が飛び出すような恐怖シーンやじわじわ怖くなるサスペンスを期待して見たらがっかりする。

タイトルロールの幽霊を演じるのはケイシー・アフレック。この役には名前さえなく、クレジットではCと表記されるだけだ。アフレックが姿を見せる場面はほんのわずかで、ほぼ終始シーツをかぶっている。人を脅かすといったお化けっぽいことはせず、ただそこに立っているだけ。時が流れるにつれて、「そこ」の持つ意味が、そしてその空間と彼の関係が変容し、深まっていく。

シーツお化けの名演技

映画が始まって10分ほどでCは死ぬが、生前の彼は愛する女性M(ルーニー・マーラ)と最近越したばかりの古い平屋に暮らしていた。ごく手短にこのカップルを紹介する場面から、2つの重要な情報が得られる。2人が深く愛し合っていること。

でも入居した家への思いは違うこと。彼は床板がきしむような家と、元の家主が残して行ったピアノが気に入っているが、彼女はもっと都会的な家に住みたがっていて、調律の狂ったピアノも処分したいと思っている。

だが家のことで口論しても、CとMが愛し合い、共に人生を送ろうとしていることは明白だ。それゆえ一層、自動車事故でのCの突然の死は衝撃的だ。

次の場面(ほとんどせりふはない)で、Mは病院で身元確認のためにCの遺体と向き合う。Mたちが出ていった後もカメラはその場にとどまり、シーツを掛けられたCを見守る。と突然、シーツの下の男が身を起こす。この場面も単純にびっくりするだけで、さほど怖くない。男は立ち上がり、シーツの裾を引きずって家に向かう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

北朝鮮と関係するハッカーが「裏方」ソフトに不正侵入

ビジネス

三井住友銀、米法人傘下銀の商業銀行事業を現地行に売

ワールド

トランプ氏、対イラン作戦2─3週間内に終結も 「間

ワールド

米国民の3分の2、「目標未達でも」イラン戦争の早期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中