最新記事

サウジアラビア

トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子

Bad Bet

2018年11月13日(火)15時30分
トム・オコナー

10月下旬にCNNの公開討論番組に出演したクシュナーも、事件に関するサウジ側の説明が二転三転していることを問われると、こうかわした。「見掛けでは分からないことがある。中東でもワシントンでもそうだ。今回の件も、偏見を持たずに見なければならない」

そうは言っても、かつてアメリカの期待の星だった皇太子が一転して障害物となりかけている事実は否定できない。イランを孤立させ、パレスチナ和平で「世紀の取引」を実現する、そのためにアラブの盟主たるサウジアラビアを取り込むというトランプの筋書きは破綻寸前だ。

もちろんアメリカは長年にわたり、サウジアラビアを中東における戦略的パートナーと見なしてきた。だからこそサウジの超保守的な宗教がもたらす好ましくない症状(9.11同時多発テロの実行犯の多くがサウジ国籍だったことなど)には目をつぶって同盟関係を維持する一方、武器や石油の取引では大いに稼がせてもらってきた。

もちろんアメリカは他の湾岸諸国とも良好な関係にある。しかし中東問題研究所のトーマス・リップマンに言わせれば、そうした諸国は「経済的にも軍事的にもサウジアラビアにかなわない」し、アメリカの兵器購入や石油市場への影響という点でも比較にならない。ブルッキングズ研究所の中東専門家ブルース・ライデルも「(サウジに代わる)選択肢はない」と言う。

リップマンによれば、アメリカの中東戦略には地域の安定促進、イランとの対決、石油の安定供給、イスラエルの保護、投資機会の創出、テロ組織との戦いといった要素が含まれる。サウジは少なくとも名目上、こうした目標に貢献している。

だが皇太子のダークな一面が明らかになった今、アメリカ政府も「サウジを頼りにできない同盟国、不利益をもたらす存在と考える可能性がある」と、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院のカミーユ・ペキャスタンは指摘する。

ちなみに「それはサウジアラビアを格下げし、イランへの関与を選んだオバマ政権の立場だった」と彼は言い、こう続けた。「トランプ政権はイランと対決し、サウジを支持する姿勢に戻った。無謀な行動をしないようにサウジを導くこともできたはずなのに」

昨年11月、ムハンマド皇太子は反腐敗運動の一環と称して政府高官や王族数十人を一斉検挙した。この行動は改革者としての皇太子の名声に傷を付けた。そしてカショギ殺害事件でイメージはさらに悪化した。

「今は次々に間違いを犯しながらも国内外の支持を取り付けているが、いつまでも続くとは思えない」とリップマンは言う。皇太子は自分の国際的なイメージを汚しただけではない。彼を持ち上げた人々(例えばクシュナー)の顔にも泥を塗った。

トランプは大統領に就任してから、今もサウジアラビアに大使を送っていない。その代役がクシュナーで、皇太子と同じ30代の彼は親密な関係を築き、それを最大限に利用している。しかしクシュナーが音頭を取った中東和平構想は矛盾だらけのお粗末なもので、完全に行き詰まっている。

不動産屋親子を待つ失敗

クシュナーはかつて、イスラエル人によるパレスチナ自治区への違法な入植に資金を提供する団体の運営に関わっていた。そんな彼に、義父はパレスチナ和平の任を託した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD

ビジネス

新藤経済財政相、あすの日銀決定会合に出席=内閣府

ビジネス

LSEG、第1四半期契約の伸び鈍化も安定予想 MS

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中