最新記事

サウジアラビア

トランプを追い込む疑惑のサウジ皇太子

Bad Bet

2018年11月13日(火)15時30分
トム・オコナー

ムハンマド皇太子(写真)の暴走でトランプと娘婿クシュナーが矢面に立たされている Amir Levy-REUTERS

<ジャーナリストの死で「改革派」皇太子のダークな一面が暴露され、トランプとクシュナーの中東政策が窮地に>

「素晴らしい一日だった」――昨年5月、大統領就任後初の外遊先に選んだサウジアラビアに到着し、まさに王侯貴族並みの厚遇を受けたドナルド・トランプ米大統領は、満足げにそう語ったものだ。

オバマ前政権時代、両国の関係はどちらかといえば冷え込んでいた。当然、トランプはその逆を行く。明日からのサウジアラビアは「アメリカに巨額の投資」を行い、中東和平における重要なパートナーとなる、それが私の「戦略的ビジョン」だ。そう豪語した。

これを聞いて大げさに喜んでみせたのはトランプの娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー。彼はサウジの実質的な指導者となったムハンマド・ビン・サルマン皇太子(33)と親密な関係を築いてきた。

アメリカにとって、国内外で何かと評判の悪いサウジと組むのは大きな賭けだった。それでもクシュナーは、サウジを取り込むことには特別な価値があると言い張った。

若き皇太子をアメリカの味方に付けておけば、いざトランプ政権がパレスチナ紛争の「解決策」を提示したとき、きっと影響力を行使してアラブ諸国を説得してくれるだろう。そうすればトランプは、パレスチナに平和をもたらした大統領として歴史に名を残すことができる......。

それから1年半がたつ今、その若き皇太子のせいでトランプ政権は政治的・外交的な砂嵐に巻き込まれている。サウジ出身でアメリカを拠点に活動していたジャーナリストのジャマル・カショギ殺害に、ムハンマド皇太子が関与した疑いが晴れないからだ。

この皇太子は改革派とされるが、その手法はかなり乱暴だ。17年にレバノンの現職首相サード・ハリリを監禁して辞任を強要した疑いがあり、隣国カタールを経済封鎖で孤立させ、イエメン内戦には軍事介入している。

サウジ側の公式発表によれば、皇太子はカショギ殺害を命じておらず、一部の工作員が勝手に、ただし「計画的に」カショギを殺害したにすぎない。

二転三転するサウジ側の主張には、アメリカ議会もいら立ちを募らせている。トルコの検察当局が持つ証拠などから皇太子の関与が疑われる以上、トランプ政権は何らかの対応をすべきだという声が高まっている。イエメンでの空爆作戦で子供を含む多くの一般市民に被害が出ていることへの反発もあり、サウジ軍に対する米軍の支援をやめるべきだとの要求もある。

さすがのトランプ政権も、こうした声を無視はできない。マイク・ポンペオ米国務長官は、カショギ殺害事件の容疑者と特定されたサウジ国籍者21人のビザを剥奪すると発表した。トランプ自身も、殺害の裏に「誰か」がいるとすれば皇太子だろうとの推測をあえて否定はせず、これは「史上最悪の部類に入る隠蔽工作」だとも語っている。

期待の星から危険因子に

それでもトランプはサウジとの親密な関係を維持したい。だから何とかして皇太子を推定無罪で済ませたいようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に語った「彼を信じたい」という言葉がその証拠だ。

トランプの計算をさらに複雑なものにしているのが、サウジと自らのビジネス上のつながりだろう。サウジでの投資や事業を否定しているトランプだが、大統領になる前の15年には、サウジの顧客から「4000万ドルか5000万ドル」ほど稼がせてもらったと発言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マツダ、関税打撃で4━9月期452億円の最終赤字 

ビジネス

ドイツ輸出、9月は予想以上に増加 対米輸出が6カ月

ワールド

中国10月輸出、予想に反して-1.1% 関税重しで

ビジネス

FRB、近くバランスシート拡大も 流動性対応で=N
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中