<格安航空会社の旅客機事故があったインドネシアで、今度は離陸前の機内から乗客が「耐えきれない」と脱出する「事故」が発生したが──>

インドネシア・スマトラ島ブンクル州の州都ブンクルにある空港から首都ジャカルタに向かう予定だったスリウィジャヤ航空機で、機内に搭乗した乗客の大半が機外に降機してしまい離陸が遅延する「事件」があった。原因は機体下部の荷物室に積み込まれた大量の「ドリアン」から、機体上部の客室にまでその臭いが漏れてきたためで、改めてドリアンの臭いの凄さを裏付ける出来事となった。

客室乗務員(CA)は臭いの原因が荷物室のドリアンであると説明したうえで「離陸して上空に上がれば臭いはなくなる」、「臭い消しとして消臭効果のあるコーヒーの粉末やパンダンの葉を置いてあるので心配ない」と乗客に説明したという。

しかし乗客たちは臭いに耐えきれないため、善処をCAに求めたものの解決策が示されないことから、多くの乗客がタラップを降りて機外に出てしまった。

スリウィジャヤ航空ではとりあえず乗客の要望と運航を優先させるために荷物室に積み込まれていたドリアン2025Kgを急きょ下ろすことを決定。ドリアンを機外に運び出した後、乗客を再度機内に案内し、出発予定時刻を1時間遅れて離陸したという。

積みこまれた約2トンものドリアンが、乗客の荷物なのか空輸する貨物なのか、所有者は誰なのかなどの「騒動の元凶」であるドリアンの詳細については伝えられていない。

乗客がFBで顛末を伝える

この「ドリアン事件」の一部始終は乗客の一人が映像をインターネット上のソーシャルネットワークfacebookに投稿したため、その様子が広く伝わった。

BBCなどが伝えた投稿者のコメントによると「機内に入ったらドリアンの臭いがした。CAに不満を言ったものの、聞き置くだけで具体的な対応をしてくれなかった」ということで、「周りの乗客にこの機体で飛行したいか聞くと大半が否定的だったので機外に出た」としている。乗客の中にはCAに詰め寄る人もいたというが、最終的にはドリアンを荷物室から下ろして問題は解決、全ての乗客が機上の人となったという。

ドリアンの臭いから乗客が逃げ出したインドネシア機 KOMPASTV / YouTube
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身も心もとろけそうな味わいと臭さ (撮影筆者)

悪臭だが「果物の王様」ドリアン

ドリアンは東南アジア全域にある果物で、トゲ状の外観からは想像もできないほど果実は甘くとろける様な触感で「果物の王様」と称されている。ただその臭いは強烈で「生ごみの臭い」「食べ物が腐敗した臭い」など酷評を得ており、ドリアン好きには応えられない臭いもドリアン嫌いには耐えがたい悪臭でしかない。

その強烈な臭いゆえに、インドネシア、シンガポールなどでは航空機は当然のことながら列車や地下鉄、バスやタクシー、ホテルへの持ち込みが厳しく制限されている。

ドリアン好きに言わせると「最初に口にしたドリアンで好き嫌いが完全に分かれる」ということで、ドリアンの「ファーストコンタクト」ならぬ「最初のひと口」が、その後の人生でのドリアンとの関係を決定づけることが多いという。

つまりドリアンでも味に幅があるということでマレーシアに多い品種「モントン」がドリアン好きの間では最高とされている。

インドネシアでは「メダン」「ぺトラック」などの品種があり、5〜10月の最盛期には各地にドリアン専門の夜市がたつほか、道端にドリアンを満載したトラックが停まり即席販売で売られている。臭いが強いため自家用車で来て購入するか、販売しているその場で食べるのが通常だ。

安いもので1個が10万ルピア(約800円)、大きく甘い品種などになると20〜40万ルピア(約1,600〜3,200円)になる。

ビールなどのアルコール類やコーヒーなどとの「食べ合わせ」がよくないと言われているが科学的に証明された訳ではないという。

ドリアン味のキャンディー、ドリアンアイスクリーム、ドリアン羊羹(ようかん)、ドリアンのドライフルーツ、ドリアンジュースなど臭いをやわらげた加工商品も数多く製品化されている。

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インドネシアではよく見かけるドリアンの移動即売(撮影筆者)

今後は別の方法検討、と航空会社

今回の「事故」についてスリウィジャヤ航空は「ドリアンは航空機の運航に支障をきたす物でもないし、積載禁止の危険物にも指定されていないので積み込んだだけである」としながらも「ドリアンの積載に関しては今後、乗客への迷惑、という観点からどういう方法があるのか検討することとした」として今後、同様の事案の発生を防止するとともに、ドリアン輸送に関する新たな方法を模索するとしている。

ドリアンのシーズンは間もなく終わろうとしているが、冷凍などで保存されたドリアンは一年中出回っており、今後もドリアン好きとドリアン嫌いの人による「臭い」を巡る攻防は続きそうだ。

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[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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