最新記事

ドイツ政治

大躍進した緑の党がドイツ政治のトップに立つ日

2018年10月26日(金)15時40分
スダ・ダビド・ウィルプ

バイエルン州議会選の出口調査の発表で歓喜する緑の党(中央はロベルト・ハベック共同党首) Andreas Gebert-REUTERS

<もはや環境政策だけが売りの政党ではない――広範囲な問題に取り組む緑の党が保守と連立する?>

BMWやビールに代表される製造業の集積地、ドイツ南部バイエルン州の政治体制は間もなく一新されそうだ。10月14日に行われた州議会選で、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組む中道右派の地域政党、キリスト教社会同盟(CSU)が得票率37.2%で歴史的な惨敗を喫した。

CSUは長年、バイエルンでほぼ一貫して単独政権を担い続けてきた。だが今回は、CSUや中道左派・社会民主党(SPD)など主流政党の票が、複数の少数政党へ流れた。

その1つが極右「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。過激な反移民、反EUを主張する彼らが得票率10.3%で4位になり、初の州議会入りしたことがニュースになるのも無理はない。だが今回の選挙で何より注目すべきは、左右両派から支持を集め、得票率17.7%で2位となった緑の党の躍進だろう。

今回起きた「緑の波」は、ドイツ各地での緑の党の躍進に続くものであり、今後国政で彼らが主要な役割を果たすことの前触れでもある。CSUがバイエルンでの立場を維持したいのなら、環境保護団体から出発して今や有力政党になった緑の党と組むのが賢い選択だろう。

元CSU党首の故フランツ・ヨーゼフ・シュトラウスは80年代、「CSU以上に右寄りの政党はあり得ない」と発言した。だが15年以降の難民大量流入に伴い、「あり得ない政党」のAfDが躍進。移民に寛容なメルケルに不本意ながら従ってきたCSUは、バイエルンでことごとくAfDに票を奪われた。

シュトラウスの亡霊にたきつけられたのか、CSUは右旋回を図っている。州内の全公共施設に十字架の設置を義務付け、より強硬な移民政策を主張。党首のゼーホーファー内相は移民問題でメルケルと激しく対立し、一時は辞任まで表明した。

問題は、こうした戦略が何ら効果をもたらさなかったこと。AfDから支持奪還はできず、女性有権者の反感まで買った。

半数以上の州で連立入り

実際、AfDのまね事をするCSUは有権者の思いを読み違えている。バイエルンの有権者が移民や治安を懸念しているのは確かだが、多くは教育や環境、住宅政策により強い関心を抱いている。CSUは視野を広げる必要があった。

皮肉なことに、当初は環境という単一争点から出発した緑の党は、今や広範囲な問題に取り組む党になっている。SPDがメルケルの連立政権入りしてじわじわと支持を低下させるなか、緑の党は外交から行政のデジタル化まで取り組みを広げ、SPDの支持を奪ってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪中銀、予想通り政策金利据え置き インフレリスク警

ワールド

EU、環境報告規則をさらに緩和へ 10日草案公表

ワールド

中国外相「日本が軍事的に脅かしている」、独外相との

ワールド

焦点:米政権の燃費基準緩和、車両価格低下はガソリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中