最新記事

貿易摩擦

米中通貨戦争へカウントダウン開始

U.S.-China Currency Clash

2018年10月13日(土)11時30分
キース・ジョンソン

米中の貿易戦争に加えて通貨戦争も勃発すれば、中国にもダメージが?(写真は米ドル紙幣を数える中国・華夏銀行の行員) Sheng Li-REUTERS

<関税引き上げで圧力をかけるトランプに対抗して中国は再び人民元の切り下げに踏み切るのか>

米大統領に就任するはるか前から、ドナルド・トランプは中国が経済的優位に立つために為替相場を不当に操作していると批判していた。この主張が的外れだった時期もあったが、今は雲行きが変わってきた。トランプが仕掛けた貿易戦争の影響により、中国は本気で通貨の切り下げを検討している。

トランプ政権は中国への追加関税を次々と発動し、今では2500億ドル相当の中国製品がその対象となっている。これを受けて中国は、主にアメリカの農産品を対象とした報復関税で対抗。中国のアメリカからの輸入は輸出よりずっと少ないため、国内の米企業に新たな障壁を設けたり、アメリカの外交政策上の目標達成を阻むなど、関税以外の報復措置も検討している。

しかし中国の手元には、まだ経済的に力強い(あるいは危険な)武器が残っている。通貨だ。

春から秋にかけて、中国政府はアメリカによる関税がもたらす影響を和らげる1つの方法を見つけ出した。人民元の価値を対米ドルで約9%下落させて輸出品の相対価格を安くし、関税分を相殺するというものだ。

この急激な元安が「意図的な措置」だったことは間違いない。中国は今も政府が通貨の価値を決めており、元安を食い止めたければ介入できたはずだからだ。専門家の間には、中国指導層がトランプに対抗するため、再び元の切り下げに踏み切りかねないとの見方もある。

この夏の元安は「米政府に対するメッセージだった」と、国際金融協会(本部ワシントン)の主任エコノミストであるロビン・ブルックスは指摘する。「アメリカが中国に関税を課し続けるなら、元の価値は大幅に下落する、貿易戦争に加えて通貨戦争まで勃発する、という意味だ」

強硬派の発言力が増す

この1年で元の価値は、対米ドルで着実に上昇した。そのため中国政府にはこの夏、深刻な悪影響を引き起こさずに元の下落を許容できる余裕があった。だが今は元の価値を押し下げる要因がいくつもあり、それほど余裕を持ってもいられない。

9月末に米政策金利が引き上げられたことで、中国の比較的低い金利の魅力が薄まり、元の価値が押し下げられた。中国が推し進めている「緩和的」と言える金融政策も、通貨の価値を下落させる傾向にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、シカゴへの州兵派遣差し止め維持 政権の申

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、GDP好調でもFRB利下げ

ワールド

米政権の「テックフォース」、約2.5万人が参加に関

ビジネス

カナダ中銀、次の一手「見通し困難」 不確実性高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中