最新記事

「嫌われ力」が世界を回す

落合陽一に聞く、落合陽一のこと

2018年9月6日(木)18時00分
小暮聡子(本誌記者)

――落合さんは、筑波大を卒業後に東京大学大学院に入り、学際情報学部初の飛び級で修了。2015年には最先端の研究者の送られるWorld Technology Awardを、青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した中村修二氏に次ぐ日本人2人目として受賞した。最先端を行く落合さんの思考を、すべて完璧に理解できる人は落合さん以外にほとんどいないのでは。

そう、たぶん最初は1%くらいの人しか分からない。

――理解されない孤独、というのを感じることはあるか。

あまりない。誰かに分かって欲しいとは思っているけれど、分かってもらえないことに慣れている。だから別にいいか、と思う毎日だ。

――昔から、小さいときからそうだった?

小さいときからずっとそう。幼稚園で「これやりたーい!」って言うと、みんな「やりたくなーい」と言って。じゃあ僕ひとりでやるからどうぞ、という感じだった。例えばみんながドラゴンボールごっこをしたいって言ったら、僕は松平健の役をやる、と言って。でも松平健はドラゴンボールに出てこない。僕は、暴れん坊将軍のほうが好きだった。

――自分のやりたいことは理解されないと悟ったとき、周りに合わせようとはしなかったのか。

合わせようとせずに1人で楽しむことは多かった。でも、1人だった時間はそんなに長くなくて、合う人はいた。幼稚園にあまり友達がいなかったら、母親の友人の子供と遊びに行ったりとか、そういうことがよくあったし、それはそれで楽しかった。

人の評価が気になるのは、近代教育の影響だ

――小さいときに、褒められた?

小さいときには褒められて嬉しかったこともあるし、けなされて悲しかったこともあったかもしれないけど、今はもうない。それは、自分が「近代教育」から抜けたから。小学校から高校までが、近代教育。日本ではこの間に、他人にけなされたら悲しくて、他人に褒められたら嬉しいということを刷り込まれる。

近代教育において「誰かに褒められる」というのは、つまり何らかの評価機構に「良いです」と言われることだ。テストで良い点数をとったり、かけっこで1等賞になったり。そのことに価値があると小学校1年生から高校3年生まで教え込まれる。

逆に、そういうのは別にどうでもいいから、というのが大学教育。評価基準を自分で作って、自分で「美しい」と認めるのが大学の、アカデミズムの世界だ。つまりそれは美学の領域で、研究というのは美学であり、コミュニティー作りかつ探究だ。

僕は今、(筑波大で)大学教育をしている側の人間だ。大学では、(褒められるためではなく)自分がやりたいと思ったことをまじめにやればいい。そう思うと、あまり何も気にならなくなってくる。そういう人たちをどれだけ育てることができるかが、勝負だと思っている。

僕は今、「出る杭」として打たれている気はしていない。打ってくる球は打ち返すけど、打たれることが嫌だと思うのは教育の影響だと思う。本来、出る杭は打つ必要ないから。出る杭を打ち合っている時間はないのに、みんな、他人に興味がありすぎる。

僕、他人に興味がないからね。他人に興味がない人が増えたらいいなと思うけど、それは思いやりがない人という意味ではなくて。道端で人が倒れていたら、大丈夫か?となるし、お隣さんに迷惑をかけないようにしようとも思う。それは美意識の問題だ。でも、「お隣さんが車を持っているからうらやましい」というのは美意識ではない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中