最新記事

ヘルス

ハンドドライヤーの風であなたの手は菌まみれ

HAND DRYERS SPREADING GERMS

2018年8月30日(木)16時30分
キャサリン・ハイネット

ハンドドライヤーから吹き出される温風にはトイレ内の空気よりもはるかに多くの細菌が JIM GREEN/GETTY IMAGES

<トイレ中に飛散する細菌を吸い込んで吹き付ける......「衛生的」なイメージとは程遠い実態が明らかに>

手に付いた細菌をばらまかないために、トイレの後は手を洗おう――。そんな「常識」が実は逆効果かもしれない。

最新の研究によれば、オフィスビルなどのトイレに設置されたハンドドライヤーで乾かすと、せっかく洗った手に菌が付着し、ビル全体にばらまかれる恐れがあるという。

4月に米科学誌「応用・環境微生物学」(オンライン版)に発表された研究では、米コネティカット大学の研究者チームが大学内にある36カ所のトイレのさまざまな位置に培養皿を置いて細菌の数を調べた。その結果、ハンドドライヤーから吹き出される温風には、トイレ内の空気中よりもはるかに多くの細菌が含まれていることが分かったという。

「特にふたのないトイレの場合、水を流す際に、排便に含まれる細菌がいくらか空気中に飛散する」と、論文の著者であるコネティカット大学のピーター・セトロー教授(分子生物学・生物物理学)は本誌に語った。トイレには大勢の人間が出入りすることも事態を悪化させるという。ハンドドライヤーはトイレの空気を取り込み、高速で吹き出すからだ。

今回の研究では、本来は研究室にしか存在しないはずのPS533(遺伝子操作によって無害化した枯草菌)がどのトイレでも見つかった。恐らく研究室から研究棟全体に菌の胞子が飛散したのだろうと、セトローは言う。研究チームによれば「大きな建物の中で、病原菌の胞子が部屋から部屋へ飛散する可能性がある」。ハンドドライヤーもその飛散原因の一部になりかねないという。

理屈の上では、ドライヤーにHEPA(高効率微粒子除去)フィルターを取り付ければ、洗ったばかりの手に細菌が吹き付けられるのを防げるはずだ。しかし今回の研究では、HEPAフィルターを取り付けたハンドドライヤーでも、菌の付着を防げたのは約75%。かなり高い割合だが100%ではない。

「フィルターが正常に機能していなかったか、ハンドドライヤーの周囲のろ過されていない空気中から菌が入り込んだのかもしれない」と、セトローは言う。例えばハンドドライヤーの周囲に対流が生じ、トイレ内のろ過されていない空気をドライヤーの風が巻き込んだ可能性もある。

今回の研究以外にも、ハンドドライヤーが細菌(無害なものも有害なものも含めて)の飛散にひと役買っている可能性を示す証拠が増えている。そのため、セトロー自身は使い捨てペーパータオルを愛用。今回の調査対象となった大学内の36カ所のトイレにも置かれるようになったという。

[2018年8月28日号掲載]

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、英BBCに10億ドル訴訟警告 誤解招く

ワールド

サルコジ元仏大統領を仮釈放、パリの裁判所 10月に

ワールド

シリア暫定大統領、米ホワイトハウス訪問 米政策の転

ワールド

インド首都で自動車爆発、8人死亡 世界遺産「赤い城
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中