最新記事

1つの中国

中国怒らせた南洋の小国パラオの苦悩 チャイナマネー捨て台湾と国交続けられるか

2018年8月29日(水)19時00分

量から質へ

パラオのレメンゲサウ大統領は、観光規制について中国政府から公式の通知は受けていないと話った。

「われわれや台湾の外交的友好国に対し、中国が自国に乗り換えてほしいと考えているのは周知の事実だが、1つの中国政策はパラオが決められるものではない」。レメンゲサウ大統領はパラオ第2の町ミューンズでロイターにそう語った。

現在2期目で2021年1月に任期が終わるレメンゲサウ大統領は、パラオは中国からの投資や観光客を歓迎するが、政権の方針や民主主義の理念上では、台湾により共感すると話した。

パラオは、団体旅行客よりも多くのおカネを落としてくれる個人客に注力することで、中国人観光客の減少に対応している、と大統領は説明。団体観光客によって、これまで環境に悪影響が出ていたという。

パラオの人気観光スポットだった塩水湖ジェリーフィッシュレイクは、クラゲの激減によって2017年に閉鎖された。多数の観光客が訪れたことがその原因とされている。

「現実には、パラオにとって(観光客の)数が大きな利益を意味していたわけではない。(今回の減少により)われわれは量ではなく質の政策を模索する決意をより強くした」そう語るレメンゲサウ大統領は2015年、パラオ領海のほとんどを海洋保護区に指定している。

影響力を構築

ミクロネシア連邦とマーシャル諸島、そしてパラオの3カ国は、米国と自由連合盟約を締結しているが、複数のパラオ元政府高官によれば、同盟約が2023年と2024年に期限を迎える前に、中国は同地域における自身の影響力を固めようとしている。

米国は、年平均で約2億ドル(約220億円)の財政支援を3カ国に提供し、防衛を担っている。3カ国とも国際連合に加盟している。

米国政府は昨年12月、パラオに対して2024年まで1億2400万ドル規模の経済支援を行うことを遅れて承認したものの、同盟約の延長については方針を明らかにしていない。

ミクロネシアの元政府関係者によれば、中国は、自身の掲げる経済圏構想「一帯一路」をパラオにも広げようとしており、同盟約が期限を迎えた後は、重大な投資を提供する可能性があると話す。

「中国は攻勢をかけている」と、パラオのトリビオン前大統領は語る。「われわれは投資家を必要としており、それはパラオと中国の関係における大きな要素だ」

「台湾が好きだ。だが台湾人でさえ、今では中国を必要としている。ビジネスマンも中国を必要としている。彼らは政治的な成り行きなど考えていない。経済を考えている」と、2013年まで大統領を務めたトリビオン氏は語った。

パラオは、台湾から年間1000万ドルの支援のほか、医療や教育の奨学金を受けている。

レメンゲサウ大統領は、米国との盟約が満期を迎えた後の資金支援について、中国と公式な協議はしていないとしつつも、政府内で検討を始めていると述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ

ビジネス

日経平均は反発、円安を好感 半導体株高も支え

ビジネス

村田製作所、マイクロ一次電池事業をマクセルに80億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中