最新記事

インドネシア

熱戦続くアジア大会、スタジアムの外では警備のため超法規的殺人

2018年8月26日(日)13時14分
大塚智彦(PanAsiaNews)

選手達の熱戦に注目が集まるアジア大会だが、その裏では…… REUTERS/Willy Kurniawan

<日本人選手の活躍に注目が集まるアジア大会。だが、熱戦が続く試合会場の外では大会の安全確保という名の下で超法規的殺人が行われている>

インドネシアで8月18日から開催されている第18回アジア大会に先立ち、同国国家警察は開催地の首都ジャカルタ、共催地のスマトラ島パレンバンなどを含む全国で集中的な犯罪取締を実施した。だがその過程で、70人以上が正当な司法手続きに従わない「超法規的措置」として警察官に射殺されたと国際的な人権組織「アムネスティ・インターナショナル」が指摘、非難している。

アムネスティによると、今年1月からアジア大会が始まった8月中旬までにインドネシア国家警察は全国で犯罪摘発を強化、特に大会1カ月前となる7月からは「Cipta Kondisi(状況更新)」作戦と称する特別集中取り締まりを実施した。

この過程で少なくとも77人の容疑者が捜査にあたった警察官によって、取り締まり現場で射殺されたという。

アジア大会開催地では31人を射殺

このうちアジア大会開催地のジャカルタ、パレンバンでは31人が正当な司法手続きを経ることなく殺害されたという。

取り締まりの対象となったのはいわゆるストリート犯罪(路上犯罪)といわれるスリ、空き巣、窃盗、オートバイを使ったひったくり、武器を使用した強盗などで、テロ容疑者などは含まれていない。

7月3日から取り締まり強化作戦を開始したジャカルタ首都圏警察は7月13日に「320人の容疑者を逮捕し、抵抗や逃走を試みた52人の容疑者に警察官が発砲、11人が死亡した」と発表していた(「インドネシア、首都の強盗摘発強化作戦 10日間で320人逮捕、警官発砲で11人が死亡」)。この数字からすると7月13 日以降8月18日の開会式までにアジア大会開場地域で20人が射殺されたことになる。この20人がジャカルタとパレンバンでそれぞれ何人であるかについて警察は発表していないという。

ティト・カルナフィアン国家警察長官は路上犯罪取り締まり強化に当たり「現場で容疑者が逃走を試みたり、抵抗したりした場合は躊躇することなく発砲せよ」と警察官に指示を出している。

しかしアムネスティは、警察官による発砲、射殺を法的に検証する捜査は的確に行われているとはいえないとしたうえで、「正当防衛」や「止むを得ない措置」として「超法規的殺人」が今後も横行する危険性への懸念を表明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中