最新記事

貿易戦争

米中貿易戦争、第1ラウンドはアメリカの勝ち

2018年8月30日(木)16時10分
ブライアン・ブレンバーグ(米キングズ・カレッジ副学長)

アメリカが要求するものの多くは中国の成長に必要なものばかりだ DAMIR SAGOLJ-REUTERS

<国際貿易の「常識」に挑戦したトランプの賭けで、中国の政治と経済の意外なもろさが明らかに>

中国にはアメリカとの貿易戦争に勝つための政治的安定と経済力があると思われていた。だが、この「常識」に対するトランプ米大統領の挑戦は、中国の意外なもろさを明らかにした。

中国がこれまで経済成長を続けてきたのは、知的財産(知財)権の侵害、自国企業への補助金、外国の競合他社への参入障壁といった不快な側面を世界の指導者が黙認してきたからだ。しかし、トランプは違っていた。

トランプは中流層の支持者に対する政治的アピールとして、関税引き上げで中国の不公正貿易と闘う姿勢を打ち出した。中国経済と政治指導者が専門家の予測よりも圧力に弱いとみて、賭けに出たのだ。今では、この判断が正しかったことを示す証拠が次々と出てきている。

貿易戦争における中国の重要な武器は経済ではない。関税引き上げ合戦になれば、中国はアメリカからの輸入が輸出に比べて少ないため、いずれアメリカと同等の報復関税を課すことができなくなる。

それでも政治的には中国が有利だとみられていた。理由は、習近平(シー・チンピン)国家主席は有権者に気を使う必要がないからだ。逆にトランプは、経済的痛みを伴う貿易戦争を始めた理由を有権者に説明しなければならない。

つまり貿易戦争では、民主主義がアメリカの最大の弱点になるはずだった。だが、現実はそうなっていない。

現在、中国経済においてアメリカの関税引き上げの影響が顕在化しつつある。一方、米経済は絶好調だ。習は意外なほど弱い立場に置かれている。民主主義社会で声高に叫ばれる政権批判の声が、共産主義国には存在しないというわけではない。表現の形が違うだけだ。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、不満の声は意外な方面から上がった。声の主は中国の名門大学の法学者や中国人民銀行(中央銀行)の研究者だ。

貿易戦争の長期化は危険

批判の声を力で封じ込めても、マネーは黙らない。4月に米中貿易摩擦が激化して以来、中国の通貨・人民元は大きく下落した。この人民元安は、中国からの資本流失の始まりを示唆している可能性がある。

流出する資本の行き先は、ほぼ間違いなくアメリカだ。減税と金利上昇、力強い経済成長、規制緩和によって、現在のアメリカは魅力的な資金の逃避先になっている。米株式市場は再び史上最高値圏をうかがい、中小企業の景況感も最高に近い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中