最新記事

格差社会

中国共産党「農村に帰ろう」Uターン戦略の見えない勝算

2018年7月25日(水)16時41分

 湖南省 Furong村の自宅で取材に応じるZhao Fenglingさん。2018年5月撮影(2018年 ロイター/Ryan Woo)

大きな帆布の上で乾燥させた菜種を叩き、種子を振り落としながら、 Liu Dekeさん(73)は巻きタバコをふかしていた。近くで種子を取り終えた茎を燃やしており、立ち上る煙が水田を渡っていく。

中国湖南省の農村地帯にある東風村に住む農家のLiuさん夫婦にとって、これは日常の作業風景だ。中国農村部に住む多くの家族のように、彼らの子どもたちも、ずっと前から農業よりはるかに高い給料を得ることができる都会に移住してしまった。

高齢化が進む中国の農村経済は、多くが小規模農家や零細産業で成り立っており、生産性低下に直面している。代わりとなる新たな成長エンジンは現れていない。

人材流出があまりにも進展したことを危惧した中国の習近平国家主席は、いまや才能ある人材が地方にUターンするよう呼び掛けている。都市化が繁栄への入り口だと位置づけている中国では、これまで考えられなかった動きだ。

これは、約5億7700万人が暮らす農村地方の状況を改善するこで、社会不安の芽を摘み、消費を活性化させ、大都市の成長をコントロールしたいという、中国共産党の願いを反映している。

また、習主席が昨年10月に打ち出した「農村振興戦略」の一環でもあると、中国国家発展改革委員会(NDRC)のアドバイザーを務める馬暁河氏は語る。農村地帯のインフラを改善し、近代農業を発展させ、「数兆元(数十兆円)」もの投資を呼び込む構想だという。

この戦略の発表以来、いくつかの地方政府が、起業家や高い技術力を持つ労働者、大卒者、そして「プロの近代農業者」などを、ルーツがある農村に呼び戻すためのインセンティブに取り組むことを約束した。

中部河南省は、起業するために同省の農村地帯に移住する人を対象に、60億元(約995億円)を今年支出する。こうした「地方起業家」20万人を誘致したい考えだ。

東風村など500以上の小さな村々に囲まれた湖南省双峰県をロイター取材陣が訪れると、地方へのUターンを奨励する活動が活発に行われていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:司法の掌握目論むトランプ氏、側近が描く人事と

ビジネス

アングル:企業投資はドイツからフランスへ、マクロン

ワールド

原油先物、週間で2%超安 堅調な米経済指標受け

ワールド

米大統領選でトランプ氏支持、ブラックストーンCEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 8

    テストステロン値が低いと早死にするリスクが高まる─…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    日本を苦しめる「デジタル赤字」...問題解決のために…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 10

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中