最新記事

中国メディア

フォロワー数1位、中国官製報道のSNS適応成功の裏にあるニュース製作「厨房」とは

2018年7月5日(木)11時53分
林毅

紙の新聞は果物の包み紙としてしか活用されなくなった人民日報だが Thomas Peter/Illustration- REUTERS

<今や中国の職場で配る果物の包み紙としてしか利用されなくなった人民日報。影響力を失ったはずの共産党機関紙は、なぜかSNS微信(WeChat)のオフィシャルアカウントで圧倒的な人気を誇っている>

目下、微信の公衆号(オフィシャルアカウント)でもっとも人気があるアカウントがなにか知っているだろうか? 人気のタレント? マクドナルドのような企業? それともジャック・マー?

答えは当然NO。そう、共産党のトップ機関紙、人民日報だ。下表を見ると、閲覧量5.3億以上で圧倒的な1位、2位もCCTVだ。つまりガチガチの大本営発表アカウントが、3位以下に圧倒的な差をつけてワンツーフィニッシュを決めていることになる。

linyi180705-pic1.png

出典:達観数据8年5月分

人民日報(の紙版)は日本の新聞のように、内容に興味があるからと自分の意思で申し込んでお金を払って購読するものではない。どちらかというと会社や単位に勝手に送られてきて、よくて職場で配る果物の包み紙として活用され、悪いと縛られたまま燃えるゴミ行きといった運命をたどるものが大半だろう。もちろん熱心な党員や党を相手に仕事をしている人にとっては目を通す必要はあるものの、その絶対数は多くない。

しかしSNSである微信の公衆号は当然、読みたい人が勝手にフォローして読むだけだ。誰もあなたに強要したりはしないし、ある日気がつくと勝手にフォローさせられているということもない。基本的に特別扱いはないのだ。

紙版の人民日報の発行部数は318万とのことなので、上記のデータが外部からの推測値を元にしており厳密には正しくなかったとしても、アクティブなフォロワーの数はすでに紙の発行部数に並ぶかもしくは越えていることになる。

なぜ人民日報のアカウントはそんなに人気なのだろう?それともやっぱり毒にも薬にもならない内容なのに不思議な力でフォロワーが増えているのか?

今日は、その背後にいる運営チーム「中央厨房(=セントラルキッチン)」の話だ。

・・・・

紙面とSNS記事は全然別物

まず、つまらないという前提の紙面も一応見てみよう。ウェブで閲覧できる。

linyi180705-pic2.jpg

18年6月17日人民日報1面

...つまらない、というより情報としては重要なのかもしれないが、とにかく少なくとも興味を引き読む気を起こさせるものではない。5G通信がそろそろ本格的に始まりそうであること、黒龍江省がすごいこと、税関が廃棄物の密輸取締キャンペーンを行ったこと、汪洋がウガンダを訪問したことはわかる。しかしこの内容を積極的に読みたいと思う人はまあ、少ないだろう。

では、同じ日に微信で発せられたのはどのような記事だろうか?

linyi180705-pic3.png

記事はこれ以外にも配信されている。また地域などによって順番も変わるようなので参考でしかないが、手元で表示されたのは上記のようなラインナップだ。

台風が来てダメになりそうな大根を2つの大学が協力して事前に大量に買い取り、学食で創意工夫した大根づくしメニューを出して見事に使い切ったという、ハートウォーミング/いい話系だ。タイトル自体も「2つの学校の学生が5日で11トンの大根を食べ尽くした理由」という、ちょっと読んでみたくなるようなものになっている。それ以外にもおっさんが好きそうなセクハラネタ、父の日にあわせたお父さんすごいネタ、健康Tipsなど(クオリティは別として)どれも話法としてはネット的なものだ。

この日の記事にはなかったが、他にも最近他のサイトやアカウントでよく読まれている記事で取り上げられている論点に意見を述べたりタイトルをひっかけるなどの手法もよく使われている。

そして付け加えるなら、僕自身の微信上の友人の実に5%がこのアカウントを実際フォローしていた。その後何人かに聞いた所、最も多い場合で30%近くがフォローしていると教えてくれた。数量が水増しされている可能性までは否定できないものの、実際にこのアカウントは面白いなのか役に立つなのか、とにかく意味があると思ってフォローされているということがわかる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中