最新記事

労働

働き方改革とは無縁の「過労死予備軍」が多い職業は?

2018年7月25日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

いまだに長時間労働から抜けられない過労死予備軍は少なくない Gearstd-iStock.

<1カ月あたりの残業時間が100時間を超える「過労死予備軍」の比率が高いのは、医師、法曹、教員、運転手......とこれまでにも過重勤務が指摘されている職種>

高度経済成長の時代、働き盛りの男性の脳梗塞死亡率は現在の5倍以上だった。当時は日本中がブラック企業で、表沙汰にはならなかったにせよ、労働者の過労死が頻発していたと考えられる。

日本人の働き過ぎが糾弾されて久しいが、昔と比較すれば緩和されたと言われている。週休2日制になり、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)が謳われ、そのための取り組みも進んでいる。

しかし今でも、悲惨な事例は見られる。2015年の暮れに、大手広告代理店の若手社員が過労の末に自殺した。月当たりの残業時間は100時間にも及んでいたという。日本人のワーカホリックは治癒するどころか、悪化の向きさえ感じられる。少子高齢化による人手不足も、それを後押ししているだろう。

これに匹敵する長時間労働をしている過労死予備軍は少なくない。2017年の総務省『就業構造基本調査』によると、年300日・週75時間以上働いている正社員は30万人いる。月の残業時間が100時間をゆうに超える人たちだ。

比率にすると0.9%だが、値は職業によって違っている。<図1>は、全職業と医師の過労死予備軍の出現率を、正方形の面積で表現したものだ。年300日以上と週75時間以上の両方に当てはまる人が何%いるかを示している。

maita180725-chart01.jpg

全職業でみた過労死予備軍の出現率は0.9%だが、医師では11.1%にもなる。9人に1人が、いつ過労死してもおかしくない状態で働いている。勤務医の過労はよく指摘されるが、それが数値にも表れている。

上位10位の職業を見ると、以下のようになっている。

1)宗教家 ... 14.8%
2)医師 ... 11.1%
3)法務従事者 ... 6.3%
4)採掘従事者 ... 5.9%
5)漁業従事者 ... 4.9%
6)教員 ... 4.1%
7)音楽家・舞台芸術家 ... 4.0%
8)その他のサービス職業従事者 ... 3.3%
9)飲食物調理従事者 ... 2.8%
10)自動車運転従事者 ... 2.7%

トップは宗教家で14.8%だ。仕事と生活が一体になっていて、分けづらいのかもしれない。先ほど見た医師、法務従事者、教員の過重労働もよく指摘される。人手不足により、飲食業や運転手の過労死予備軍率も高い。政府の過労死防止大綱で、これらは特別な調査研究の対象業種に指定されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、クックFRB理事を異例の解任 住宅ロー

ビジネス

ファンダメンタルズ反映し安定推移重要、為替市場の動

ワールド

トランプ米政権、前政権の風力発電事業承認を取り消し

ワールド

豪中銀、今後の追加利下げを予想 ペースは未定=8月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中