最新記事

宗教

ロシアでエホバの証人狩り、ソ連「宗教弾圧」の悪夢再び

2018年7月17日(火)17時00分
マーク・ベネッツ

ロシアは宗教弾圧の暗い歴史を持つ。公式記録によれば、無神論を国是としていたソ連時代にはロシア正教会の聖職者が少なくとも20万人処刑され、加えて何百万ものキリスト教徒が投獄されるか迫害された。

エホバの証人への弾圧は、当時に逆戻りしたかのようだ。「年配の信者はソ連時代の悪夢を思い出している」と、モスクワ在住のある信者は匿名を条件に本誌に語った。

ソ連時代との違いは、エホバの証人だけが標的にされていることだ。治安当局はロシア正教会の強力なバックアップを受けて弾圧を行っている。

ロシアの憲法は政教分離をうたっているが、20年近くに及ぶプーチンの支配下でロシア正教会と政府の癒着が進んだと反政府派は指摘する。ロシア正教会のキリル総主教はここ数年、自らが「聖戦」と呼ぶシリア介入から、「唾棄すべき」とさげすむ同性婚までさまざまな問題で公式声明を出している。さらに、プーチンの統治を「神による奇跡」とたたえてもいる。

russia20180716151402.jpg

ロシア南部タガンログの個人宅に集まった信者(左の女性と中央の老人は「過激な活動」で起訴された) Alexander Aksakov-The Washington Post/GETTY IMAGES

愛国主義を支持せず弾圧

エホバの証人への弾圧については、総主教は公式発言を控えているが、教会の広報担当は熱っぽく支持。キリルに近い正教会の超保守派の活動家らも最高裁の判断を歓迎している。「エホバの証人は外国の宗教をロシア人に押し付けようとしているが、ロシアにすればいい迷惑だ」と、保守派の活動家アンドレイ・コルムヒンは吐き捨てる。

昨年の世論調査によれば、ロシア人の80%がエホバの証人弾圧を支持しているが、この数字はロシアの人口に占めるロシア正教会の信者の割合と同じだ。

一方、最高裁の判断の背後に政治的な意図が透けて見えるという指摘もある。「ロシアが欧米と対決したことで、愛国主義の嵐が国中に巻き起こったが、エホバの証人はこれを支持しなかったから弾圧の対象になった」と、モスクワのロシア科学アカデミーの宗教専門家ローマン・ランキンは指摘する。「政府と治安機関は宗教団体の動きを極度に警戒している」

ランキンによれば、ロシア正教の活動家も治安当局ににらまれる可能性がある。「いくらプーチンがロシア正教の信者でも、モスクワの路上で『キリスト教のコミュニティーを建設しよう』と訴えたら、今のこの国の法律では逮捕されかねない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米GDP、第1四半期+1.6%に鈍化 2年ぶり

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中