最新記事

アメリカ経済

トランプの仕掛けた貿易戦争、米国内に生まれる「勝ち組と負け組」

2018年7月15日(日)12時27分

 米ミズーリ州ギデオンの農場に持ち込まれた大豆種子。2018年5月撮影(2018年 ロイター/Shannon Stapleton)

何世代にもわたり穀物生産と鉄鋼業が産業の柱となってきたミシシッピ川流域のこの一帯で、貿易関税について話したがる人は誰もいない。

教会のチャリティー活動では皆その話題を避け、農業者とアルミニウム工場の従業員が世間話に興じている地元のカフェやファストフード店でも、その話題にだけは誰も触れない。

ここミズーリ州ニューマドリード郡では、トランプ米大統領の貿易戦争の勝ち組と負け組みが、隣り合わせで暮らしている。

トランプ大統領による輸入鉄鋼・アルミ製品の関税引き上げにより、住民のほとんどが命運尽きたと考えていた地元のアルミ工場は、息を吹き返した。

だが工場の周りや郡に広がる農地では、米国産作物に課される報復関税を心配する農業者が、設備投資を遅らせたり、土地をハンターに貸し出したり、将来的な価格下落を恐れて収穫前に作物を売約し、現在価格での収入を固めたりしている。

「貿易について話したい人はいない」と、代々続く大豆と綿花農家のジャスティン・ローンさんは言う。「最適な栽培方法を話題にしておいて、身を低くして祈っていた方が安全だ」

米国と中国は6日、それぞれ相手国からの340億ドル(約3兆7000億円)相当の輸入製品に関税をかける措置に踏み切り、農業者の懸念は現実のものとなった。大豆を含む米国産農産品の多くは、中国への輸入時に25%の関税をかけられる。

二ール・プリゲルさんは、貿易戦争が地域に及ぼす影響の両面を知っている。

2016年に閉鎖されるまでノランダ・アルミニウム精錬所で働いていたプリゲルさんは、兄弟2人と4000エーカーの農場を経営する農業者でもある。

トランプ氏が3月に輸入鉄鋼・アルミニウム製品への関税を課すと発表したとき、プリゲルさんはテレビのニュースを見ながら、こう考えた。「助かった。これで仕事が戻るだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中