最新記事

高齢化社会

27年後、人口の半分が65歳以上という秋田に見る「日本の未来図」

2018年7月4日(水)17時14分

7月4日、リンゴ農家の伊東郷美氏(66、写真)は、昨年、近所の人がクマに襲われ怪我をした時に直接クマに遭遇した。山間の集落で唯一の猟銃保持者だった伊東氏は、9─11月に、仕掛けの檻にかかったクマ11頭を処分した。写真は7月撮影(2018年 ロイター/Kiyoshi Takenaka)

ある初夏の朝、秋田市の中学校に隣接するグラウンド。生徒たちが登校し始めるなか、70ー80歳代の男性たちが野球の練習をしていた。この場所を練習場とする野球チームのメンバーは33人。この中学の全校生徒数27人を上回る。

「怖いですよ」──。野球チーム「白浜クラブ」の会長で元教師の大友康二氏(87)は言う。「未来図は描けません、今の状態だと。どんどん人口が減少していって」。

秋田県の人口は、2045年までに41%減少、約60万人のうち半分が65歳以上になると、国立社会保障・人口問題研究所は試算している。

日本全体では、2040年ごろに、人口における65歳以上の比率が現在の秋田県と同じになると推定される。

秋田県は2015年に、子どもに対する医療費助成対象の拡大、保育料全額助成の対象拡大、奨学金返還助成制度などの少子化対策・移住促進策を含む「あきた未来総合戦略」を策定した。

佐竹敬久秋田県知事はロイターのインタビューで「秋田は面積が広く、一定の地域の人口密度が希薄になればなるほど、逆に行政経費がかかる。そういう地域の維持は非常に難しい」と語った。

人影少ない駅前通り

夜になると、秋田駅前の大通りも人影はまばらになる。デパートの前の看板は「週末は、夜もゆっくりお買い物」と宣伝しているが、閉店は午後7時半だ。

2017年の秋田県の死亡者数は、人口1000人当たり15.5人。死亡率は全国で最高となっている。出生率は同5.4人で全国最低。

行政サービスの仕事に従事する三浦史佳氏は、街の様子について「変わりました。葬祭会館が増えましたね。以前はそんなになかったんですけど、昔あったビルが新しくなって、何かなと思っていると葬儀場になっている」と語る。

労働力不足は全国的な問題だが、特に秋田では介護の仕事をする人が足りず、増大する介護サービスの需要を満たすことが困難になっている。

秋田認知症介護支援センター「ふきのとう」の沼谷純理事によると、介護士がいないため、3つあった施設の1つで、昨年営業を停止せざるをえなくなった。同理事は「お客さんはいるけど、お客さんを入れられない。働く人がいないから。働き手不足、労働力不足による閉鎖、休止というのが今の介護業界では実際に起きている」と話す。

県議会議員でもある沼谷氏は、秋田など地方で起きている問題は、いずれ東京にも直接、影響していくと指摘する。「地方で子供が生まれ育ち、その子供たちが東京に行き、生産をして、消費をし、経済をつくる。それが、戦後の経済成長期から続くモデルだった。でも今地方には、子供を供給する力がなくなってきている」、「地方が成り立たなくなって来ると、東京も当然成り立たなくなる」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウ和平交渉で立場見直し示唆 トランプ氏

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中