最新記事

貿易戦争

2000億ドル規模の米中貿易戦争 ダメージは低成長の日本に大きく

2018年7月11日(水)18時03分

日本は成長率の4分の1喪失も

しかし、2000億ドルのインパクトを吸収できるのも、GDPの規模が20兆ドル(約2200兆円)を超える米国経済なればこそ。間接的としても経済的なインパクトは小さな国になればなるほど大きくなる。

日本のGDPは約500兆円と米国の約4分の1。成長率も今年が1%前半と、米国の3分の1程度だ。特に中国から米国への輸出が減少すれば、中国を最大の輸出先とする日本が受ける影響は大きい。中国から米国への輸出製品に使われる部品などを日本は輸出しているためだ。

シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏の試算では、日本の対中輸出と、中国の対米輸出の36カ月相関は、世界金融危機前の0.8(1.0が完全連動)に迫る0.6超まで上昇。「日本の輸出や生産が、米中貿易摩擦の影響を受けやすくなっていることを示唆している」という。

村嶋氏によると、関税と報復措置で米国の対中貿易赤字が500億ドル減少すれば、日本の中国への輸出減少や設備投資の抑制などを通じて、日本のGDPは0.27%押し下げられる。経済協力開発機構(OECD)の予想では、日本の成長率は今年、来年とも1.2%。約4分の1が吹き飛ぶ計算だ。

軟調だった安川電の株価

貿易戦争による米経済への影響度が大きくないことは、日本にとっても朗報だ。11日の日本株が下げ渋ったのは円高が進まなかったことが大きい。

「米国の成長率押し下げが限定的であれば、FRB(米連邦準備理事会)の利上げスケジュールに変更はないだろう」(三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏)とみられていることが、ドル/円を下支えている1つの要因だ。

ただ、市場の警戒感も強い。11日の東京株式市場で、目立ったのは、あす12日に第1四半期(3─5月)決算発表を予定している安川電機<6506.T>のさえない株価だった。「現時点では業績に影響が出てないとしても、中国需要の先行きに市場の警戒感が高まっていることを示している」(国内証券)という。

ミョウジョウ・アセット・マネジメントのCEO、菊池真氏は「日本株の場合は、中国の依存度が相対的に高い。結果的に日経平均やTOPIXは下げが大きくなる」と指摘。FA(工場の自動化)などの中国関連銘柄だけでなく、日本株全体のエクスポージャーを落とす動きが強まれば、中国と関係のない銘柄であっても、一緒になって外される可能性が高いと話している。

今月から始まる3月期企業の第1・四半期決算発表。現時点の業績修正は少ないとみられているが、企業経営者のマインドが冷え込み始めていないか、コメントなどをいつも以上に注視することになりそうだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

[東京 11日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗弊インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏首相、年金改革を27年まで停止 不信任案回避へ左

ビジネス

米ウェルズ・ファーゴ、中期目標引き上げ 7─9月期

ビジネス

FRB、年内あと2回の利下げの見通し=ボウマン副議

ビジネス

JPモルガン、四半期利益が予想上回る 金利収入見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中